1-17 少年は獅子の如く

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 最早トンネルの形態は残っておらず、瓦礫の隙間を縫っているだけだった。限界を迎えたのか、積み上がった瓦礫があちこちで崩壊する音と振動を感じる。 「駄目だ、これ以上進めない!」  暗闇でサクが声をあげた。ほんの僅かな隙間から細い光が漏れている。外界はもうすぐそこなのに。  振動と共に重なっていた瓦礫が崩れ、バランスを失ったカイは傾いた足場を滑り落ちる。闇に飲み込まれる感触に背筋が凍った途端、その背をぶつけた。狭い隙間にはまり込んでしまったことにぞっとした時、目は強い光を捉えた。  手を伸ばせば届く場所に、穴が空いている。懸命に瓦礫から這い出し、小さな隙間に手を差し入れると、外の涼やかな風が触れた。 「サク、こっちだ! 出られるぞ!」 「こっちって、どこにいるの」 「こっちだ、俺の声がする方に下りてみろ」  両腕で引きずる身体を隙間にねじ込み、カイはやっとのことで外に這い出した。すっかり潰れたトンネルの向こう側に空いた穴だった。  何度も呼んでいると、土に汚れた細い腕が穴の中から生えてきた。それをしっかりと掴み、カイは外へと引っぱり出す。より身体の小さな彼は、二、三度強く引くとなんとか外へ脱出した。  土埃で顔も手足も汚れた二人が息をついたとき、一際大きな轟音が辺り一帯に響いた。地面が振動し、トンネル全体が崩落する。さっき出たばかりの穴も潰れ、異形の吠える声も聞こえなくなった。瓦礫をよじ登り辺りを見渡すと、異形の姿はそこになかった。トンネルに突っ込んだ勢いで崩落に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになったらしい。右手には木々の向こうに切り立った崖があり、反対には木立が続いている。見上げると真っ白な空にはいつの間にか雲が敷き詰められ、ぱらぱらと小雨が降り出していた。 「潰れたのかな」  瓦礫の上でほっと息をつくサクが目を見張った。ぐらぐらと足場が揺らぐ。覚束ない足元が傾き、ガラガラと音を響かせて、瓦礫の中から異形が姿を現した。身体のあちこちがべこりとへこみ、灰色の毛皮を血に染めた獣は、せめてひと齧りだけでもしようと、目前の獲物の頭に大きな口を開けた。  彼の襟元を引き倒しながら、カイは構えた銃の引き金を引く。一発の銃弾は、異形の喉元に真っ直ぐ吸い込まれていった。  最後の一撃を喰らった異形は絶叫し、倒れ、瓦礫の山を転げ落ちた。しばらくカイはそれを見下ろしていたが、二、三度呻った獣はやがて動かなくなった。
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