1-18 少年は獅子の如く

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1-18 少年は獅子の如く

「……やった」  腰を落としたまま異形を見下ろすサクが、疲れ果てた声を零す。その手を掴んで引き起こしてやりながら、カイは安堵がこみ上げるのを感じて笑みを浮かべる。 「やったぜ、倒したんだ。俺たちが」  あれを倒せたのなら、多少血の流れる傷なんて大したことはない。カイは腕で頭の傷を拭った。とにかく、二人で力を合わせて生き延びた。銃を身体にかけ、サクの肩を軽く叩こうと手を伸ばす。  伸ばした手で掴んだ肩を、カイは思い切り下方に引き倒した。位置を入れ替わるようにぐるりと身を反転させる。  その身体が一度大きく波打った。真っ赤な血が迸り、瓦礫の上に倒れ伏す。  サクは咄嗟に構えた銃を撃った。向こうで発砲した誰かは銃弾を受けてきりきり舞いをする。もう一発撃つとバランスを失い、雑木林に埋もれた。 「カイ!」  絶叫し、サクは瓦礫の上に横たわるカイに取りつく。カイは苦しげに顔を歪め、その目は眩しそうに天を仰いでいた。薄く開いた口の端から血が零れ落ち、その右の脇腹はごっそり抉れていた。灰色の瓦礫の上に大量の血がどろりとした海を作り、控えめな小雨が降り注ぐ。  呆然とするサクは、咄嗟にカイの傷口に手を当てて抑えた。少しでも血が止まることを願ったが、熊や鹿や異形を殺すための弾丸は、カイの身体には強力すぎた。あの誰かは確実に自分を狙っていた。カイは自分を庇って撃たれたのだ。 「カイ、待ってて、傷を塞ぐから」  手遅れなのは百も承知なのに、そんな台詞を口にして、サクは包帯を取り出そうとベルトのポーチを探る。なかなかジッパーを開けられないのは自身の手が震えているせいだとは気付かなかった。もどかしくなり、再び彼の傷を手のひらで塞いで、傷の大きさに絶望する。 「大丈夫だよ、大丈夫、絶対に」自分に言い聞かせながら、サクは必死にカイに話しかける。「きっと山を下りたら村があるから、そこまで僕が背負って行くから、大丈夫だよ」  口早に話しかけるサクの名を、カイの掠れた声が呼んだ。
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