2-3 夢幻と窮地

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2-3 夢幻と窮地

 シェルターは、ドーム型の地上一階部分と五十階にわたる地下部分で構成されている。階層により区分けが成され、サクが所属する偵察部隊は地上一階から地下三階までの特殊活動区において、ほぼ全ての活動が完結していた。訓練場、教室、寮などが備わり、更に下層の一般居住区を訪れる用のないサクは、以前から区外へ出ることも滅多になかった。  シェルターに戻ってからの一年も、片手で数えるほどしか出た覚えはなかったが、その日は珍しく下層に向かうエレベーターに乗った。  遠くない先に予定している作戦の地はリーパーの汚染が著しくひどく、Sランクの中でも更に耐性に優れている者と、超耐性であるサクに加え、機械の使用を試すという。局がアンドロイドの開発を行っている話は知っていたが、実物を見たことは一度もなかった。ひと目見て学んでおくようにとの達しがあり、訓練が終わると、サクは食事も摂らず開発区に向かった。区は地下四階から地下八階に及び、アンドロイドの研究所は地下六階に造られていた  シェルター内はどんなに明るく飾っても、どこか鬱屈とした雰囲気が漂っている。それが閉塞感に侵された人々の諦観か、窓のない地下施設の特性によるものかはわからない。  だが、研究所は他区とは異なる空気を持っていた。白い壁や天井には清潔感があり、活動する人間が少ないせいか、やけに広々として見える。研究所の受付で目的を告げると、人一人が通れるゲートをくぐった上で中に通された。危険物の持ち込みがないか、簡易的にチェックするゲートだ。  ここで待つようにと言われた部屋には、床に固定されたテーブルがあちこちに設置してあった。卓上には多くの書物やよくわからない機械が積み上がり、片側の壁際には人の形をした機械が数体立っている。外側がなく、中のモーターや基板やコードが剥き出しの機械は、頭部に人間そっくりの二つの目玉がはまっていて薄気味悪い。まるで皮を剥いで中身を剥き出しにした人間に見つめられている気がする。  これがロボットなのだろうか。初めて見る代物をサクが眺めていると、背側のドアが開く音がした。 「遅くなりました、お待たせしてごめんなさい」  急いで来たのだろう、多少息を切らす姿を見て、サクは内心で驚いた。てっきり無骨な壮年の研究者が出てくるものと思っていたが、現れたのは歳もそう変わらない少女だった。肩につく黒い髪に、線の細い華奢な体躯をしている。シャツとジーンズの上に白衣を纏っているから、研究所の所属であることは間違いない。 「シズ管理官から話を聞きました。アンドロイドの研究をしています、ニナと申します。えっと、偵察部隊のサクさん、ですよね」  シズは偵察部隊だけでなく、研究所とも関りを持っている。アンドロイドの使用は、彼を中心に検討されているそうだ。 「アンドロイドを見せてくれるって聞いたんだけど……」  サクが頷いて返事をすると、彼女は「はい」と言った。 「まだ開発段階なのですが、プロトタイプの完成の目途がついて、偵察部隊の任務に起用するとのことです。どんなものか、一度ご覧になってみてください」  なんだかむずむずする気分で、サクは彼女に続いて部屋を出た。これほど丁寧な言葉遣いを向けられたことは今までになく、自分がここにいるのは場違いな気さえした。
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