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「もともと、何のためにアンドロイドを作っているんだ」
「それは、あなたたち……つまり、偵察部隊の人員を入れ替えるためです」
「人員を入れ替えるって」
「外部調査に関して、今は耐性のある人たちに行ってもらうしかありません。人工的に耐性をつける方法は見つかっておらず、シェルター内の約十五パーセントの方々に頼るしかない、圧倒的に人員が足りない状況なのです。それを機械に任せようという考えです」
ニナは言い辛そうな口ぶりで、並ぶロボットたちに視線をやった。配線が剥き出しの人型ロボットはまだ機械にしか見えない。しかし皮一枚を被れば、今度は人だと錯覚してしまう。
「アンドロイドを使えば、人が命を落とすことなく、より遠方や危険な地での任務が可能になる。その第一歩を担うのが、彼なのです」
彼女は細い指先を先ほど会話したアンドロイドの腕に触れさせた。その顔には研究者としての誇りではなく、親しい者を案ずる憂慮が浮かんでいた。
「それは、ワクチンができるより早そうなのか」
局はリーパーに対するワクチンの開発を精力的に行っているはずだ。それが完成すれば、誰もがシェルターを出て活動が可能になる。サクの知らない七十年前の生活を取り戻せるはずだ。
「ワクチンの研究は、正直なところあまり進んでいません。私は専門ではないので詳しくは認識していないのですが……。この施設も含めて人員も資材も足りておらず、また妨害もないわけではないので……」
少しずつ思慮にふけろうとする彼女は、はっと顔を上げ、慌てたように言った。
「すみません、関係のない話に入ってしまって」
「いや、気になるから構わないけど」
「この研究所でサクさんにお見せしたかったのは、彼です。なので、ここでの一応の目的は達成できたのですが……。もう、夜ご飯は済んでますか」
彼が否定すると、彼女はいけないと言う風に首を振った。
「この階層にも食堂があります。よろしければそちらに移動しましょう」
サクは去り際にもう一度振り返った。アンドロイドたちは、まるで屍のようにぴくりとも動かなかった。
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