2-4 夢幻と窮地

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「もともと、何のためにアンドロイドを作っているんだ」 「それは、あなたたち……つまり、偵察部隊の人員を入れ替えるためです」 「人員を入れ替えるって」 「外部調査に関して、今は耐性のある人たちに行ってもらうしかありません。人工的に耐性をつける方法は見つかっておらず、シェルター内の約十五パーセントの方々に頼るしかない、圧倒的に人員が足りない状況なのです。それを機械に任せようという考えです」  ニナは言い辛そうな口ぶりで、並ぶロボットたちに視線をやった。配線が剥き出しの人型ロボットはまだ機械にしか見えない。しかし皮一枚を被れば、今度は人だと錯覚してしまう。 「アンドロイドを使えば、人が命を落とすことなく、より遠方や危険な地での任務が可能になる。その第一歩を担うのが、彼なのです」  彼女は細い指先を先ほど会話したアンドロイドの腕に触れさせた。その顔には研究者としての誇りではなく、親しい者を案ずる憂慮が浮かんでいた。 「それは、ワクチンができるより早そうなのか」  局はリーパーに対するワクチンの開発を精力的に行っているはずだ。それが完成すれば、誰もがシェルターを出て活動が可能になる。サクの知らない七十年前の生活を取り戻せるはずだ。 「ワクチンの研究は、正直なところあまり進んでいません。私は専門ではないので詳しくは認識していないのですが……。この施設も含めて人員も資材も足りておらず、また妨害もないわけではないので……」  少しずつ思慮にふけろうとする彼女は、はっと顔を上げ、慌てたように言った。 「すみません、関係のない話に入ってしまって」 「いや、気になるから構わないけど」 「この研究所でサクさんにお見せしたかったのは、彼です。なので、ここでの一応の目的は達成できたのですが……。もう、夜ご飯は済んでますか」  彼が否定すると、彼女はいけないと言う風に首を振った。 「この階層にも食堂があります。よろしければそちらに移動しましょう」  サクは去り際にもう一度振り返った。アンドロイドたちは、まるで屍のようにぴくりとも動かなかった。
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