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サクは黙って同じように水を飲んだ。ランクが高いどころか超耐性を持って生まれたおかげで、彼女のような苦しみを感じたことは一度もない。また高耐性の者で構成される偵察部隊に所属しているため、周囲にも大きな危機感を覚えている者は少ない。このままワクチンが完成せずとも、自分には縁のない話だ。
「ごめんなさい。耐性のある方は偵察部隊で苦労をして、私たちの為に働いてくれているのは承知しています」
「だから、謝らなくていいよ」硬いパンを千切りながらサクは続ける。「いがみ合ってても仕方ないし。今あるものの中で、頑張るしかないよ」
かつてカイが口にした台詞を伝えると、ニナは微笑んで頷いた。その笑顔を見て、彼女がカイに会うことができれば、二人は何を話すだろうと、サクはぼんやり思った。
「ワクチンが一日でも早く完成して普及することを願っています。その目途が立たないなら、偵察部隊の方々の命を救えるよう、私たちは精いっぱいアンドロイドの研究を行います。……アンドロイドは私たちの子どもみたいなもので、複雑な気持ちもあるのですが」
まだ年若い少女が口にする「子ども」という言葉に違和感はあったが、サクは黙って聞いていた。
「命を救うというのが傲慢にしても、少しでも皆さんの負担を減らせたら本望です。今度の任務で、研究室の彼がサクさんの助けになれるよう願っています」
彼女が周囲を見渡した。ちらほらと見えていた人の姿がほとんどなくなっていることが、時間の経過を物語っていた。
「また、疑問があったらいつでもお越しください。私にお伝えできることがあれば、お話します」
うんと頷いて立ち上がったサクは、同じようを席を立ち、盆を手にする彼女に声を掛けた。
「それなら、その話し方、やめてくれないかな。なんか、変な感じがする」
「話し方というのは」
「僕に敬語を使う人なんていないから、混乱する」
彼女はきょとんとした後、困ったような表情を見せた。
「私はずっとこんな話し方だったので……可能な限り善処します」
希望を叶えてもらうのは難しそうだ。サクは心の中で思う。
「それなら、せめて呼び捨てにしてよ。サクさんなんて呼ばれたの初めてだ」
彼女はまごつき考えるそぶりを見せたが、「……善処します」ともう一度呟いた。
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