2-6 夢幻と窮地

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 指示された部屋は、地下二階の現地から一つ下の階にある。地下三階には主に座学や会議に使用される部屋が集められ、その真下には開発区がある。サクには受けるべき説教も思い浮かばず、考えられるとすれば、先に控えているアンドロイドとの任務についてだった。だが、わざわざ夜中に用件も伝えず呼び出す必要があるだろうか。それに作戦にはSランクの耐性を持つムジも含まれているはずなのに、自分だけが呼び出される理由が思い浮かばない。本心では行きたくなかったが、シェルターで生活する者として、急がねばならなかった。  節電のため最低限の光源しか灯っておらず、エレベーターを下りた先にも足元だけが照らされる暗い廊下が続いていた。施設内はしんと静まり返り、まるで人っ子一人いない地面の底を歩いているような不気味さを感じる。暗さのあまり右手を壁に沿わせながら、記憶に頼ってサクはT字路の突き当たりを右に曲がった。すぐ脇にドアがあり、目を凝らして見上げた先には「F」のプレートがかかっている。僅かばかりの緊張を覚えつつ、軽く握ったこぶしでドアをノックした。  反応はなく、サクは更に三度ドアを叩いた。だが、誰の返事も聞こえず、人の気配も感じない。ポケットから通信機を出してメッセージを確認し、もう一度見上げたが、部屋に間違いはなかった。  気味が悪い。足元の光源に軽く目を細め、サクはそっとドアレバーを握った。下げて軽く押すと、すんなりとドアは開いた。  暗闇に目が慣れる前に、一歩部屋に入って壁へ左手を這わせた。探り当てたスイッチを入れると、ぱっと部屋の中に明かりが満ちる。  中には、誰もいなかった。  それを確認した途端、突然の轟音に思わず膝を折ってその場に伏せた。空気の振動に皮膚がびりびりと痺れるのを感じる。シェルターが丸ごと崩れたのかと錯覚するほどの大音響に加え、床がぐらぐらと地震の如く揺れる。電気は消え、あたりは再び暗闇に包まれた。サクは両腕で頭を抱え、何が起こったかを把握しようとしたが、丸きり理解が及ばない。たちまち警報音が天井のスピーカーから鳴り響く。揺れはすぐおさまったが、身体を伏せたまま這うように部屋を出る。真っ暗な廊下では右も左もわからない。  非常電源が働いたのか、廊下の電灯がぱっと明るくなり、警報の向こうで集合を命じる放送がかかる。身を起こしたサクは、誰もいない廊下を一気に走り出した。
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