2-9 夢幻と窮地

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2-9 夢幻と窮地

 事態は急展開を迎えた。REGのリーダーと名乗る男の逮捕は、いっとき爆発事件の騒動さえ薄れさせた。  管理部のネットワークへの不正なアクセスを調べた先で、男の犯行が明らかになった。六十を超えたカルムという元エンジニアの男は、管理部のネットワークに侵入して隊員たちの情報を得、次のターゲットとする者を絞っていたという。彼が自身をREGのリーダーと称するのに周囲はただの虚言だとみなしていたが、捜査を行う内に信憑性は高まった。一般居住区にある彼の自室には、現役で働く者をうならせる機器や環境が備わっていた。  現役を引退し一般居住区で暮らしていた男が、政府に歯向かう組織のリーダーだった。この事実はシェルター内を震撼させ、残りのメンバーがどこに潜んでいるかわからない疑心暗鬼を人々の間に強烈に生みつけた。 「彼が、爆破事件の犯人だったのでしょうか」  開発区の食堂で、味気ないシリアルを口に運びながら正面のニナが疑問を口にした。特殊活動区は人口密度が高く、サクが嫌な視線を受けずに済むようにという彼女の配慮だった。  早朝という時間帯のおかげで、ほとんど人の姿は見られない。サクは深夜にシェルター外の警備を行った帰りで、これから仕事に向かうニナと朝食だけを共にしていた。部屋に戻ればシャワーを浴びて眠るだけだから、少々時間を使っても問題はないと、彼女の誘いを承諾したのだ。 「僕は、きっとそうだと思う」牛乳に浸したシリアルを飲み込み、サクは返事をする。「取り調べが終わらないと、なんとも言えないけど……。けど、そもそもREGにワクチンの開発を妨害する理由がない」 「そうなんです。彼らが犯行に及ぶ理由がない。むしろ耐性ランクの低い人たちの集まりなのだから、ワクチンの開発には賛成するはずなんです」 「そうだとは思う。それで関係がないとしても……今度はタイミングが良すぎるのが気になる」  彼の言葉にニナは何度も頷いた。スプーンを操る手を止め、真剣な表情で声を僅かに抑える。 「仮にREGが関与しているとすれば、彼らだけの犯行ではなかったのだと思います」 「それって、どういうこと」 「彼らには他の繋がりがあった。ワクチン開発の妨害を望む集団……例えば、反対派とか」  どうかなとサクは首をひねった。反対派はワクチン不要説を唱える高耐性の集団であり、低耐性のREGからすれば敵のような存在だ。この二派に関りがあるとは想像し難い。  わからないことだらけだ。二人はそれぞれの思考に浸り黙々と食事をしていたが、ふとニナが安堵の表情を浮かべた。 「とりあえず、あなたから疑いの矛先が逸れて安心しました」 「今は別の問題が出てきたっていうだけだよ。僕が疑われていることに変わりはない」 「それは、そうですけど……」空の皿を少し遠ざける。「疑いを晴らす方法を探る時間ができたのは、よかったです」  自分の処遇など、本来ニナが気にするはずのことではない。そんな想いをサクが口にしかけた時、上着のポケットで電子音が鳴った。スプーンを置いて通信機を確認し、目を見張った。「REGのリーダーと名乗る男が死亡。大至急、第一会議室に集合するように」全隊員に向けたメッセージには、そう書かれていた。
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