2-9 夢幻と窮地

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 調べが進むうち、カルムがREGのリーダーである可能性は確実のものとなっていた。彼の居室からは多くの資料が発見され、それは嘗て死亡が確認された偵察部隊員の情報と一致していた。明らかな他殺から事故と思われていた死亡例まで、どのようにターゲットを殺害するかを計画していた痕跡があったのだ。  そして、ニナの推測が見事に当たっていたことをサクは知った。カルムはワクチン反対派のグループと手を組み、爆発事件を起こしたことを明らかにし、処罰が下る前に留置所で突然死した。彼の遺体からは猛毒が検出され、彼に毒物を与えたと見られる職員は姿をくらました。使用されたのがシェルター内では採取できない植物による毒だったことから、反対派の関与は疑いのないものになっていた。  あの爆発事件は、REGと反対派が手を組んで起こしたものであり、首謀の男は毒殺された。残りのメンバーがどこに潜んでいるのか、局は躍起になって探し回り、シェルター内の疑心暗鬼は留まることを知らなかった。 「おまえ、本当に奴らの仲間じゃないんだろうな」  訓練から戻っている途中、廊下でムジを含む集団に話しかけられ閉口する。何を言っても信用しないくせにと辟易する。むしろREGはカイを殺した仇であると思っているのに。 「そんなわけないだろ。奴らは高耐性を憎んでいるんだから」 「でも、それなら反対派と手を組むこと自体がおかしいよな」ムジの仲間の一人が不可解さに顔をしかめて言った。「つまり、ランクは関係ないってことか」 「それなら、そっちの誰かが犯人の仲間でも不思議じゃないよな」  サクの少々の反撃に、彼らは見合わせた顔で不快感をあらわにする。まさか自分たちの中に反乱分子が潜んでいるわけがない。そう信じているからこそ、疑惑を突きつけられて不快になる。 「生意気なこと言ってんじゃねえよ。一番怪しいのはおまえなんだからな」ムジが軽くサクの足を蹴飛ばした。それにもやや元気がないのは、シェルター一帯に蔓延する疑心の空気に多少疲弊しているからだろう。仲間だと信じていた同僚が、実は局に歯向かう危険人物だったらなどと、想像しただけで恐怖や狼狽がこみ上げてくるに違いない。  そうした空気の中、サクは少しでもREGの情報を得ようとした。彼らのコミュニティは狭く深く、少数精鋭での活動を行っている。強固な上下関係で構築され、先日死亡したカルムは絶対的な権力を握っていたらしい。分かったのはこれぐらいで、カイを殺した相手に辿り着く気配はまるでなかった。
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