2-13 夢幻と窮地

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2-13 夢幻と窮地

 警備を終えて部屋に戻っても、眠りにつくことなどできなかった。カイの仇が見つかった衝撃を含め、イブキが反対派のリーダーであったことなど、あらゆる混乱が頭の中にあった。  あの男は、必ず殺す。かといって、イブキの下について局を敵に回すつもりもない。カイの仇を討てればさっさとシェルターを出て、一人でも旅を続けるつもりだった。こんな選択を迫られるだなんて、夢にも思わなかった。  眠れないままに辿り着いたのは、どちらの答えでもなかった。イブキとの約束の日になる前にあの男を殺し、シェルターから逃げる。もしも局に捕らえられたとして、殺人は極刑の追放にあたる。シェルター側から自分を追い出してくれるなら、願ったりではないか。  ほんの僅かまどろんだ後、サクは興奮のおかげで疲れを感じない身体を持ち上げ、地下から地上一階に上がった。訓練場とは真逆の方角に歩き、昨晩訪れたばかりの更衣室に向かう。壁に埋め込まれたパネルに指を当て、履歴照会のシステムを起動した。このシステムを使えば、どの防護服がいつ誰に使用されたかを絞り出すことができる。  昨夜の夜間警備の時間を絞ると、サクを含めた四人の隊員の名前と顔写真がヒットした。この四人が一人ずつ東西南北のいずれかの地域を割り当てられ、それぞれ巡回する手はずになっている。昨晩目にした男の顔写真が確かにそこにあり、横にはアサギという名前が記されている。所属はサクとは異なる第一部隊だ。この聞き覚えのない名の男が、殺すべきカイの仇だ。  そこで一つ疑問を抱いた。昨晩、彼は顔を見せるためにヘルメットを外し、確かに空気を吸っていた。体内でウイルスを無毒化できる超耐性でもない限り、ウイルスを持ち帰っている可能性がある。そのため表面のウイルス除去に加え、検査が必要になるはずだ。結果自体は三十分程度で判明するが、それまで隔離室で待たなければならない。  サクは次に隔離室に向かった。壁にはめ込まれた窓から部屋の中をのぞいたが電気は消えていて、室内は真っ暗だ。アサギが検査を受けていても、とっくに結果を持って部屋を出たに違いない。
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