2-13 夢幻と窮地

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 どうしようと考えていると、廊下を挟んだ部屋のドアを開けて白衣を纏った壮年の男が出てきた。検査を行うために交代で番をしている職員だ。 「どうしましたか」  怪訝な表情の男に、サクは小さく頭を下げた。 「昨晩、外を巡回していたんですが、帰ってから落とし物に気付いて。もしかしたら、この辺に落ちているかと思って」  更衣室は目と鼻の先だ。偵察部隊の任務を知っている彼は、「さあ」と首をひねった。「何をお探しでしょうか」 「銃の弾です。十二ゲージの……」 「そんなもの、落ちてなかったと思うけどなあ」  男は不可思議にいっそう首を傾げた。そうですか、とサクは呟く。 「直近で、検査を行った隊員はいますか。もしかしたら、拾ってくれたかもしれない」 「いや、しばらく検査は行ってないですよ。少なくとも、明け方には誰も見えませんでした」  えっと声が出そうなのを堪えた。あの男は確かにヘルメットを脱いだし、超耐性は自分だけだ。ウイルス保持者である可能性があるのに、そのままシェルター内に戻ったというのか。もしかすると、彼を使ってイブキはテロ行為を仕掛けたのではないだろうか。  どぎまぎしながら、サクは礼を言ってその場を離れた。明らかに上へと通達しなければならない事態だ。だが、管理部が彼を捕まえれば、自分が手を下すことはいっそう難しくなる。黙って見過ごすしか方法はない。  一晩眠っていないおかげで、次第に身体は疲れを訴え始めてきた。だがここで休めるはずがないと、次は休憩室に向かった。多くの者が訓練に出ているおかげで、他に人はいない。二台だけ置かれたパソコンの一台を使って、第一部隊のアサギという人間をデータベースから引き出した。  どの隊員にも、偵察部隊員の名前や性別、配属先、割り当てられた部屋の位置を探す権利は与えられている。だが分かるのはそこまでで、後は管理部の権限でしか検索することは出来ない。アサギは特殊活動区ではなく、居住区から出勤していることが明らかになったが、居室の場所まではわからなかった。  居住区は地下二十六階から地下四十階にもわたり、人の住む部屋の数など数えきれない。闇雲に当たって捜しだせるはずがない。  悩んだ末、サクは最も原始的な方法に頼ることにした。
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