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1階のリビングには、すでに明かりがついていた。違和感を持ちながら、洗面所を覗くと弟が口をゆすいでいた。
こんな時間に起きているなんて珍しい。ああ、学校か。
「おはよう。今日から学校?」
僕の足音を聞いていたのだろう。弟は特に驚きもせず、淡々と答えた。
「いや、休みだよ。今日は入学式だから1年だけ。俺たちは明日から」
「そうなんだ。じゃあ、なんでこんな時間に起きてるの?」
「目が覚めただけだよ。二度寝しようと思ったけど、寝られなかったから。そっちは?」
「大学の仲間との集まり。ずっと会ってなかったから、久しぶりに」
「そうなんだ。はいどうぞ」
弟は歯磨きを終えると、濡れた口元をパジャマの袖で拭いながら横を抜けていった。
今の学校はそういうものなのか。自分が通っていたころとは、ずいぶんと違うな。昔の思い出に浸りつつ、歯を磨く。口の中に残ったミントの香りが気になるけど、どうしようもないので、そのまま朝食をとった。
〈チリーン〉
スマホからメッセージを受信した効果音が鳴る。
画面を見ると名前と内容が表示されていた。
『トオル』
『近くまできたから、乗せられるけど、どうする?』
トオル。
中学からの付き合いで、今は同じ大学に通っている。グループのまとめ役であり、今日の集まりの立案者でもある。
リビングの時計を確認すると9時44分を指していた。集合時刻の10時半には少し早いが、迎えにきてくれたのは正直ありがたい。
『ありがとう、下で待ってる』
食べかけだった朝食を口の中に押し込み、お茶で流し込む。急いで着替えようとしたとき、すべてを見透かされたようにトオルからメッセージがきた。
『焦るなよ。そっちに着くのは10時15分くらいだからな』
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