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そんな一抹の不安を肥大させるように、パタパタと誰かが走ってくるような音がして、僕とトオルはさっき乗ってきたエレベーターの方へ玄関から顔を出した。
こちらに向かってきたのは綺麗な顔立ちをした女性だった。京だ。
モノクロのワンピースに身を包み、茶色の髪を左右に揺らしている。右耳の歪な形をしたピアスがちらちらと光る。
僕たちに気がつくと、こちらに手を振りながら次第に笑顔になっていく。
だけど、違和感があった。いつもはそんなに気にならないのに、今だけはそこに目が釘付けになった。胸がでかすぎるのだ。
「いや、でかすぎるでしょ」
「ありゃ、もうバレたの。変態だな、君は」
「顔よりでかくなってたよ」
いたずらっぽく笑う京の隣で、トオルは頭を抱えていた。
あれ。
「介六は? 一緒じゃないの?」
トオルの話では、京と介六が昼食の買い出しに行っているはずだけど、介六の姿がない。
「ああ、置いてきちゃった。もうすぐ…あっ、来た」
京が指差した方向は、言うまでもなくエレベーターの方だ。
こちらに向かってきたのは凛々しい顔立ちをした男性だった。介六だ。
好きだと言っていた漫画のキャラクターが印刷されたTシャツを身体に貼り付け、はち切れんばかりのおなかを左右に揺らしていた。
僕たちに気がつくと、こちらに手を振りながら次第に苦悶の表情になっていく。だけど、違和感があった。いつもはちょっとしか気にならないのに、今だけはもうそこにしか目が行かなくなっていた。胸がでかすぎるのだ。
「おまえもかい」
「介ちゃんもダメかぁ」
今にも何かを吐き出しそうな介六の隣で、トオルは何かを悟ったような表情をしていた。
「おまえら…いったん入れ! 作戦会議だ!」
どうなるんだろう、これから。
トオルの家に入る際に、時計が視界に入る。
時刻は10時45分になろうとしていた。
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