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それから少し経って、トオルが料理を運んできた。
「できたぞ、焼きそばだ」
「おー、さすがはトオル氏。やりますな」
「やば。めっちゃうまそう。写真とっていい?」
「待て待て、手を合わせてからだ」
みんなで手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
焼きそばを箸ですくい、口に含む。
ソースのいい香りが鼻に押し寄せる。麺は極太麺でソースとよく絡み合って、食欲を掻き立てる色合いになっていた。具材は豚肉、キャベツ、ニンジンとシンプルなもので、ニンジンは薄く切って火が通りやすいように工夫されている。少し量が多いと思ったけど、すぐに食べ終えてしまった。
「ふー」
「やばすぎるわ、これ。トオルくん、うちのシェフに任命します」
このまま、座っていると眠ってしまう気がして、僕は立ち上がった。
テーブルにあった皿やコップをまとめて、キッチンの隣にあるシンクに置く。
洗おうとしたとき、京がやってきた。
「私も手伝うよ」
「いや、大した数じゃないし、食材を買ってきてくれたからさ」
断ろうとしている間に、京は皿洗いを始める。仕方がないので、一緒にやることにした。最初は順調だったものの、京の長い髪が彼女の視界を遮り始めた。
「大丈夫なの? 貞子みたいになってるけど」
「うらめしやー」
京は手をぶらぶらして貞子を真似る。泡が飛ぶからやめてほしい。
「じゃあ、結んで」
「自分でやりなよ」
京は僕に手を向ける。泡だらけだから、おまえがやれということだろう。
僕は濡れた手をタオルで拭き、京の後ろに立つ。
「どうやるの?」
「たくさんの髪を根本で持って、ひとつにする」
すっごい適当。言われたとおりにやってみる。苦戦はしたけど、なんとか掴むことはできた。そのまま、髪を持ち上げたとき、京のピアスが露になる。
遠目から見たときは気がつかなかったけど、今日のピアスはいつもより輝いて見えた。ああ、だからか。納得した。
「京、ピアス変えたの?」
京はびくっとして、振り返った。
「正解! よくわかったね」
これが京の2つ目の嘘らしい。
「だから、髪を結ばせようとしたんだ」
「うん。トオルくんが、ちゃんとチャンスを与えなさいって言うからさ」
確かにずっと隠したままだったら、流石に気づけなかっただろう。
これで残る嘘は、トオルの2つの嘘と介六の1つの嘘だけだな。時間を確認すると、12時過ぎだった。あと半日でわかるのだろうか。
少しだけ不安になる。
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