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「おーい、できたぞー」
トオルの声で散らばっていたみんなが一斉に集まる。
すでにテーブルの上には食器や箸が並んでいた。トオルがキッチンからフライパンを持って、やってくると生姜の香りが鼻を通る。知ってる匂いだ。
夕食は豚の生姜焼きだった。これはトオルの得意料理のひとつで、簡単においしく作れるものとして、よくふるまってくれた。しかも、ミニサラダ付きとは。もう飲食店に出していいレベルなんじゃないだろうか。
「「「「いただきます」」」」
さっそく、生姜焼きを食す。
生姜の香りが口いっぱいに広がる。豚の焼き加減もよくて、いつもの味だった。そう思いながら、口にご飯を運ぼうとしたとき、不思議な味がした。
なんだろう、この味。不快感はなく、むしろ生姜焼きに合っていた。でも、いつも食べている生姜焼きにはない味だ。もう一度、生姜焼きを口にする。今度はもっと咀嚼して味を確かめてみる。最初に生姜の味がして、咀嚼を続けると、甘い…? 甘味を感じた。この味、知ってる。これは、たしか…。
「…はちみつ」
「えっ、どしたん?」
「…?」
京と介六は物珍しそうに僕を見る。
「すごいな。わかったのか」
「ああ、いや、たまたまだよ。いつも食べている生姜焼きにない甘さがあったから、そうかなっと思って」
「気づいてもらえて嬉しいぜ」
トオルとグータッチをする。
「なんか、2人だけで盛り上がっちゃって。やなかんじー」
「まったくですな」
ぶいぶいと文句を言う2人を収めつつ、生姜焼きを味わった。
夕食後、トオルから声をかけられた。
「嘘つきゲームも、そろそろ終わりだな」
「思ってたよりも、楽しめたよ。残る嘘は、あとひとつってことでいいのかな」
「ああ。だけど、最後は難しいぜ。なんせ、もう出てる」
嫌な予感が当たってしまったわけだ。こうなったら、最初から考えなくてはいけない。
「俺も鬼じゃない。ヒントぐらいはある」
トオルは僕の顔をじっと見て言った。
「視覚だ」
「しかく?」
「五感の視覚だ」
それがヒントか。今のところ、これだというものは思いつかない。
どこかのタイミングで考える時間がほしいな。
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