第8話 女神の導き

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第8話 女神の導き

数日前の閑古鳥が嘘のように、徐々に客足が増え始めた。あれから、冒険者ギルドで何回か無料で治療したのが宣伝効果になったのだろう。予約制になり、数日先まで予約が埋まった。 「もういっそのこと、違う場所で治療したほうが良いんじゃないの」 アリスはお祈りに来る信者よりも、治療に来る患者が多い事に半分呆れていた。 「まあ、いいじゃないか。今まで通りで」 何人か治療していくうちに魔力が増えてきて、だるさも感じなくなっていた。もしかしたら、もっと多くの人を治療出来るようになるかもしれない。 今は午前中は2人、午後は3人という感じで治療をしている。 「お昼にしましょう」 奥の部屋で昼食を取る。アリスがご飯を作ってくれているのだ。最初の頃はイモばかりでそれは質素な物だったけど。今は色々な食材が並び、少し贅沢過ぎるような気がするくらいだ。鹿肉に、薬草サラダ、イモのスープまで付いている。 「グリーンが一番頑張っているんだから、しっかり食べてね」 見ると、アリスの食事の量が少ない気がする。聞くとダイエットしてるとか言うが、体が細いからする必要無いと思うのだけど。逆にもっと太った方が健康的だと思うんだけどな。 「誰かいるか?」 入口の方から声が聞こえた。ぼくは入口の方へ向かう。そこには黒いマントを羽織った青年が立っていた。腰には剣が差してある。 「今、休憩しているのですが午後じゃ駄目ですか?」 「魔物に襲われたんだ。すぐに来てもらいたい」 人が多くなったので予約で治療をしているが、最近飛び込みで来るのが増えてきたな。外に行くことをアリスに伝える。 「5人以上になるけど体は大丈夫なの?」 「少し魔力も増えてきたみたいだし、数人なら問題ないよ。行ってくるね」 マントの青年に案内され、少し町から離れたボタムの森に向かった。 ぼくは、時間までに帰ってくれば大丈夫と思っていた。 ** 「怪我人はどこですか?」 結構歩いて、森の奥に入った。あれ?へんだな。この森って魔物ほとんどいなかったはずだけど?案内してくれるマントの青年は無言のまま、黙って歩いている。そういえば目も合わせていない。 「ここだ」 言われた場所に怪我人は見当たらない。風で揺れる木々の音のみ聞こえていた。 いつの間にかマントの青年はいなくなっていた。 ブスッ 体に衝撃が走った。背中を刺されたようだ。耐えられない痛みが走る。 「ううっ」 体から力が抜けて行く。立っていられなくなりその場に倒れた。 意識が薄れていく。 ***** 「こんなもんだろ。放っておけば勝手に死ぬ」 フードを目深くかぶった男は右手に血の付いた短剣を持ち、マントの青年に言った。グリーンの体を足で踏みつける。 「それにしても金を貰ったとはいえ嫌な仕事だ。冒険者稼業の方が大変だが、その分気楽だ」 「旦那の、何をそんなに怒らせたのかね?まあ俺らには関係ねえが」 「ちげえねえ。治療院に帰るぞ。一応報告しないとだからな」 フードを被った男と、マントの青年はボタムの森を足早に去っていった。 ***** 「え?」 私はキッチンで食器を洗っていた。何だか変な感じがする。胸がざわざわする様な・・。これが悪い予感という奴だろうか? 私はグリーンが行った方向を見た。 まさか・・ね。 ふわっと温かな優しい空気が私を包み込む。目には見えないのだけど。あっちに行って!と言っている気がする。 もしかして、女神様? グリーンに何かあったのかしら。私はすぐに教会を出て、言われた方向へ向かう事にした。
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