首吊りジョン

4/6

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ***  謎解き中毒になっている一部名探偵ならば、こういう密室殺人なんてものには興味津々で捜査をするのかもしれない。  しかし僕はもう最初から憂鬱で仕方なかった。だって、あくまで羽根を伸ばすつもりで旅行に来たのに、結局仕事のようなことをしてしまっているのだから面倒にもなるだろう。無論、愛する家族を失った彼等に同情しないこともないが――いやしかし。 「ああ、もういやだ、いやだ……」 「ブラッド。あんまりそういうこと言うのやめましょうよ。人が死んでるんですから。ほらいつも通りにちゃんと謎解きしましょ」 「いつも通りってジン、あのね……」  さすがは僕の助手のジン。出先でいきなり事件に巻き込まれる名探偵、の扱いに慣れすぎである。頭痛を覚える僕をよそに、彼は手帳を取り出して事件の整理を始めた。 「えっと、この屋敷には亡くなったテッドさんを含め、五十六人ものご家族と使用人が在宅していたわけです。あ、それに加えて僕達二人、ですね。で、テッドさんは僕達に鍵を渡した後、長男のサディアスさんとその奥さんのチェリッシュさん、五男のリヴァルさん、それからテッドさんの奥さんのアナさんで揃って仕事のミーティングをされたそうです」 「あ、五男さんそこで起きてたのか」 「ですね。僕達が部屋に戻った後で起きてきたみたいですよ。……そのあと、彼が自分の部屋に戻ったところまでは目撃されていますが、そこから先のことは誰にもわからないそうです」 「ふうん……」  つまり、テッドが亡くなったのはそれ以降のこと。三時間前から今の間に死んだということである。  さらに、彼が死んでいた倉庫は普段使っていない部屋で、使用人も掃除をしなくていいと言われていたとのこと。鍵がかかったまま、長らく放置されていたらしい。三日ほどまえに三男のオットーが倉庫の鍵を借りているが、単に間違えたということですぐに戻しにきている。その時倉庫の鍵は結局開けていないという。  そして今日は、誰も倉庫の鍵を借りていない。  そして鍵はスペアキーもマスターキーも一切なく、カウンターには常に使用人が複数人詰めている上、玄関ホールは人通りが激しいのでそう簡単に鍵を盗むようなことはできないという。  そんな中、死体が発見されたのである。首吊り状態だったが、よく見ると首吊り前に首を絞められていた形跡があり、ほぼ他殺と見て間違いないという。  そりゃ、密室殺人だと騒ぎたくもなることだろう。だが。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加