首吊りジョン

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「ジン」  僕はベッドに座ったまま、げっそりとした気持ちで言ったのだった。 「僕は今、すぐにでもこの屋敷から逃げ出したい気持ちにかられている」 「は!?な、何言ってんですか、ブラッド!人が死んでて、事件起きてるですよ!謎解きほっぽり出して逃げる気ですか!?」 「依頼された事件じゃないし!ていうか、もう真相なんてわかっちゃってるんだよ、だから逃げたいんだよ僕は!」 「はああああ!?」  ひっくりかえった声を出すジン。僕は頭を掻きながら告げたのだった。 「ヒントその一。僕は、人の顔を覚えるのが得意じゃない。君もわりとそうだろ。でもって、それは結構有名な話だ」 「ま、まあそうだけど」 「ヒントその二。なんでテッドさんはわざわざ事件発生前に僕に鍵の情報を教えたのか。なんで、人がだーれも来ない倉庫なんかで首吊り死体になってたのか」 「ん、ん?」 「ヒントその三。今回マリーベルに、僕達を呼ぶように言ったのは亡くなったテッドさん本人。しかし、テッドさんは他殺である」 「え?」 「ヒントその四。トリックもなんもない、めっちゃくちゃ簡単な方法だ。でもって、一応はノックスの十戒のルールは守ってそうなんだよな、ミステリー小説なら。テッドさんが死んでた部屋、ざっと探したかんじ抜け道とかなかったし」 「え、え」 「ヒントその五。僕にも君にも確実な検死ができるほどの医療知識はない」  ノックスの十戒。ざっと引用するとこうだ。  一、犯人は、物語の当初に登場していなければならない。  二、探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。  三、犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない(一つ以上、とするのは誤訳らしい)。  三、未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。  四、欠番(元々は主要人物として「中国人」を登場させてはならない、というルールだったという。これは、かつて中国人は超能力を扱えると信じていた名残らしい)。  五、探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。  六、変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。  七、探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。  八、双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない。 「たまにはジン、君も色々考えてみなよ。何、初心者レベルのミステリーだから。それで僕がどうして憂鬱だったのかもわかるはずさ」
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