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首吊りジョン
「ようこそ、ブラッドくん。私がマリーの伯父のテッドだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
突然差し出された分厚い手を、僕はおっかなびっくりで握った。
僕が事務所で雇っている事務員のマリーベルが、実はとても高名な貴族の家の娘らしいというのは聞いていたが。まさか、郊外にこんな大きな屋敷を持つような家だったなんて思ってもみなかった。
僕と相棒のジンが探偵事務所を開いた時から、事務員として仕事をしてくれているマリーベルである。窮屈な家が苦手で、庶民がするような“普通の仕事がしてみたかった”というなんとも奇特な理由で僕に雇われていた彼女。今回、彼女の実家にジンと共に足を運ぶことになったのは、彼女が招待してくれたからだった。
『ブラッドさん。最近は難解な事件が続いてお疲れでございましょう?わたくしの実家、海が見える結構な豪邸なのです。よければ泊まりに来ません?久しぶりに、旅行で羽を伸ばすのも悪くはないでしょう?うちの伯父が、ぜひブラッドさんをお招きしたいと申しておりますの』
彼女がそう言ったのは一週間前のこと。海水浴が大好きな僕とジンは二つ返事でOKしたのだった。マリーベルには世話になっているし、彼女が話を通してくれるのであれば慣れない貴族のお屋敷であっても快適に過ごすことができるだろう。
何より、ミステリー小説を書いているジンが“殺人事件以外で貴族のお屋敷に行けるなんて、いい取材になります!”とテンション上がっていたのも大きい。彼が楽しそうなら、僕も嬉しいというものだ。
そんなわけで簡単に荷物をまとめて汽車に乗り、首都を出発してから二時間。
僕達はあっけにとられることになるのだった。田舎町の放蕩貴族だとマリーベルは笑っていたが――その屋敷の規模。首都に住んでいる名門貴族の一族だって、こんなに大きな家は持っていないのではなかろうか。
細かな装飾がついた銀色の窓、廊下を警備するかのごとくずらりと並べられた甲冑、天井から垂れ下がる巨大なシャンデリア。屋敷の外も凄いが、中もとてつもなく豪奢である。
「その、えっと……」
空気を読まないタイプだと自覚している僕だって、緊張はするものだ。正直予想外がすぎた。これでは羽根が伸びる以前に、背筋が嫌でも伸びてしまうというものではないか。
「ま、マリーベルさんにはいつもお世話になっております。ひょっとして、こちらの御宅というのは……」
「ははははは、変わり者の田舎貴族さ、気にせんでくれたまえ」
テッドと名乗った眼鏡の家長は、あっさりと爆弾を落としてくれた。
「まあ、身分は公爵だがね」
「こっ」
僕はひっくり返りそうになった。
公爵ってことはつまり、王様の親戚ということではないか!
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