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 別荘地への道はほとんど覚えておらず、カーナビに頼る必要があった。子供の頃には、ただ親の車の後ろの席で眠っていれば着いたのだから道なんて見ていない。それでも、目的地が近づくとどこか見覚えのある景色があって、遠い記憶を刺激した。  別荘地からの最寄りになる小さな町。ひなびた商店街と、スキー場のゲレンデを示す色褪せた地図の看板。いずれも、子供の頃の記憶の中にある光景と一致した。ここに最後に頻繁に来たのは小学生の頃だから、もう三十年も経っていることになるが、景色は意外なほど変わっていなかった。これは、この観光地がいかに古びているかということか。  町を過ぎてまた田んぼの中を走り、脇道へ逸れて林間道路を走っていく。やがて舗装が途切れた砂利道に出ると、そこが別荘地だった。雑木林が道の左右を覆い、黄緑色の木漏れ日が視界に満ちている。穏やかな、暖かな風景に見えたけれど、車を停めて外に出ると、肌寒くて思わず震えが来た。四月半ば、高原の空気はまだ冬の名残りがあった。私は助手席に置いていた上着を羽織った。  別荘の方に向き直る。まだ緑の茎がむき出しになったアジサイの生垣に囲まれた、赤い屋根の二階建ての家。屋根の赤は色褪せていて、家全体が煤けて古めかしく見えた。記憶の中の赤はもっと鮮やかだった気がするが、実のところはこんなものだったかもしれない。
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