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 幼い頃を思い出す。父親の運転する車がとまると、少年の私は大急ぎで車を飛び出して、別荘の方へと駆けて行った。私が着く前に、正面の茶色い扉ががちゃりと開いて、満面の笑顔を浮かべた祖母が顔を出した。 「こんにちは! よく来たね!」と祖母は大きな声で言った。その後ろから、祖父のニコニコ笑う顔も見えていた。今は亡き祖父母の、在りし日の優しい笑顔。祖母の手にはシロツメクサの花輪があって、祖母は駆け寄った私の頭に、花輪のかんむりをのせてくれた。庭のシロツメクサを摘み取って編んで作った、緑と白の花輪だ。 「やめてよ」と幼い私は嫌がった。「男だから、花のかんむりなんてしないよ」といっぱしのことを言ったと思う。 「おや、そうかい」と祖母は言って、私の頭から花輪を取って、玄関のドアノブにひょいと引っ掛けた。 「それじゃ、ここに飾っておくとしよう」と祖母は言った。  そんな記憶が蘇ると同時に、私は別荘の玄関に目をやって、ぎくりとした。不意の驚きに気をとられ、歩き出した足が思わず止まる。  玄関の扉には、緑と白のシロツメクサの花輪が飾られていた。
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