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 前庭の敷石を踏んで歩いて行き、玄関の前に立つ。ドアノブに無造作に引っ掛けられたシロツメクサの花輪は、萎れてはいなかった。まるで今摘んだばかりの花を編んだかのようにまだ瑞々しく、鮮やかな緑と白を保っていた。  私は戸惑った。訳がわからない。祖父はもう二十年以上も前に、祖母も十年近く前に亡くなっている。この家にはしばらく、誰もいない。この家のオーナーは両親だが、彼らにしても長らく来ていないはずだ。  知らないうちに、両親が来たのだろうか。それにしても、花輪はたった今作ったかのように新鮮だ。もしかして、私に黙って今日来ている?  そう考えて、私は少しがっかりした気分になった。今日は一人でここに来て、ちょっとした感傷に浸るつもりだったのだ。生涯の夢だった出版の喜びを噛み締め、今は亡き祖父母に報告する。両親が来ているのなら、そんなセンチな行動にふける余裕はないだろう。何より、恥ずかしい。  ちょっとイラついた気分になりながら、私はドアに手を伸ばした。花輪がかかったドアノブを回そうとするが、動かない。鍵がかかっている。
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