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 この花輪を誰が置いたのか、私の小説の中では明かされることはなかった。だが、私には漠然とした考えがあった。小説の中の花輪を飾ったのは、実は近所の子供ではなく、幽霊だ。  小説に、私は少女の幽霊を登場させていた。数年前に十四歳で死んだ、詩織という名前の制服姿の幽霊。彼女は重要なキャラクターとして主人公に、また主人公の息子に関わっていく。主人公たちがやって来る前に、彼女はシロツメクサの花輪を作って、この家に届けたのだろう。  だが、彼女が何のためにそんなことをしたのか、それは私にもわからなかった。たぶん、主人公たちが来る前の詩織について描写する機会があれば、やがて私にもその理由がわかっただろうと思う。だがストーリーの流れ上その機会は訪れず、私はその理由を知らないままになってしまった。  小説を書いていると、時々そういうことが起こる。確かにそうだと知っているのに、どうしてそうかはわからない。書いていくと、徐々になぜかがわかってくる。それについて書く機会を逃してしまうと、それは最後までわからないままに終わってしまう。  掃除機をかけながら、テーブルの上の花輪をかけたのが詩織だと考えている自分に気づいて、私は複雑な気分になった。詩織は存在しない。私が考えたフィクションの人物だ。そこに現実にある花輪を作ったのが詩織であるはずはない。  だが、その感覚は強力だった。
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