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『黄金の都』――この国がそう呼ばれたのは、はるか昔のことだ。かつては砂金堀りで栄えた我が国も、今は黄土色の砂漠がどこまでも広がるばかりである。  数年前までは、過去の贅沢を忘れらぬ国民たちが質素な生活に耐えられず不満を募らせて暴動が起きることも少なくなかったが、今はそれも解消された。  武力による弾圧ではなく、一人の歌姫によって。 「つまりそれが、私ってわけ」  一面黄土色の砂漠に囲まれた国の中央、この国で一番高い建物である豪華な石の塔の最上階。美しい刺繡の施されたふかふかのクッションに囲まれて、私は座っていた。 「ええ。ですから、国民には姫様(ひめさま)の歌が必要なのです」  太った大臣はもみ手をして、私に歌を催促してくる。 「ふーん」  頬杖をついて、そっぽを向くと大臣は、懐から青い宝石を出して私に見せつけてきた。 「姫様! どうか……! 何日も日照りで、作物が育たず困ってるんです!」 「いらない」  宝石を手で叩くと、コロンと転がってクッションの隙間に入って見えなくなった。 「あ゛あ゛あ゛――――!! 高かったのにぃ!!」 「だいたい、十日前に歌ったばかりじゃない。私を働かせたかったら、もっといいものを用意することね」  宝石を見つけ出し、安堵で涙目の大臣にゴミのような目を向けながらため息をついた。 「では、姫様。こういうものはいかがでしょう?」  痩せた髭の副大臣が鈴を鳴らすと、扉が開いて鎖を持った大男が入って来た。鎖は三人の少年の首輪につながっていた。 「奴隷なんていらないわよ」  しっしと追い払う私に、副大臣は 「でも、その足ですと生活が不自由でしょう?」 「がやったんじゃないの!」  苛立ちをおさえきれず、クッションに拳を突き立てる。『私が立って歩けたなら、迷わずコイツらを殴り殺してやるのに』
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