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 今日も私は歌う。塔のてっぺん、たくさんの民衆の前で。私を見るたくさんの虚ろな瞳を見ても、最近は何も感じなくなってきた。  私が歌わないとわがままを言ったら、大臣たちにビビを取り上げられるのかもしれないと思うと、怖くて仕方がなかった。それほど、私にとって彼はなくてはならない存在になっていた。 「姫様。今日の歌も、素晴らしかったですよ」 「そう」  相変わらず畑は枯れたままだが、国民からの私の人気は(うなぎ)登りらしい。ビビから差し出されたハーブティーでのどを潤す。 「姫様!」  ドアを開け、痩せた髭の大臣――数か月前までは彼が副大臣だった――が飛び込んできた。 「何よ、大声出して。行儀が悪いわね」 「すみません、しかし」  彼は髭の周りの汗を拭きとると、懐から一枚の封筒を取り出し私に渡した。丁寧に蝋で封がしてある。ビビに渡そうとすると、  大臣は老体に見合わず素早い動作で、私の手から封筒を奪い取った。 「失礼、姫様。これは、汚い奴隷風情に触らせてはならんものなのです」  そう言って、懐からペーパーナイフを取りだすとそれに、スッと刃を滑らせた。  封筒から取り出された手紙を、彼から受け取る。 『拝啓、麗しの姫様。貴女の姿を一目見たときから私の心は(以下略)』 「何これ?」 「姫様に、第八皇子から、縁談の申し込みです」
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