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「浩明は、こういう子らは好きやないんか。」
「う~ん。俺は正直アイドルはあんまり興味ない。」
「そうか。わいはやっぱりゆかりちゃんがええわ。」
そう。じいちゃんにとっては、最近出した曲が続けてヒットしている女性演歌歌手の大谷ゆかりがアイドルなんである。
俺は、彼女には特に興味はないが、じいちゃんが好きだから一緒にテレビで聴くこともある。
「じいちゃんは、演歌が好きなん。大谷ゆかりが好きなん。」
「せやなぁ。演歌は好きやし、別嬪さんのゆかりちゃんが好きやな。」
「ばあちゃんとどっちが好きなん。」
「そら、もう。おい、浩明。じいちゃんをおちょくるなよ。ばあちゃんとゆかりちゃんは別々のもんや。」
「ははは。じいちゃん、なに慌てとんの。」
「いっちょ前に大人をおちょくるな。」
大谷ゆかりが、最新のヒット曲『神戸ひとり旅』を歌い終えた。
じいちゃんが立ち上がって言う。
「よっしゃ。風呂に入るか。」
「久しぶりに一緒に入ろっか。俺、じいちゃんの背中流すで。」
「そうか。ほな、入ろか。」
「浩明。お前も大きなったな。風呂が狭ぁ感じるわ。」
「そら、俺もう高2やもん。身長、178センチになったで。」
「そうか。ついこないだまでこんなやったのにな。」
と、風呂椅子に腰掛けたじいちゃんは、右手を自分の額の辺りに掲げた。
「何年前よ。」
と俺は笑いながらじいちゃんの背中を流した。
じいちゃんは湯船に入り、機嫌よく歌い始めた。
あなたとぉ離れてぇ ここまぁで来たぁのぉ
さっき二人で聴いた大谷ゆかりの歌。
傘のぉ花咲くぅ 神戸ぇひとり旅ぃぃぃぃぃ
最後はふたりで合唱した。
俺には演歌は分からないが、じいちゃんの好きな歌を、じいちゃんと歌うのは好きだ。でも、一緒にコンサートに行こうって誘われたら困るから、まだ内緒にしとく。
〈とりあえず終わり〉
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