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淡く輝く5月の空に、白い雲が一つだけポカリと浮かんでいた朝だった。そのニュースを目にした瞬間、俺の周りだけが凍りついたような気がした。
握りしめるスマホの画面には彼の死を悼む沢山のメッセージが表示されているのにも拘わらず、電車内はいつも通りの能天気な声で満たされていた。
「……えっ! 今日小テストだったっけ。ヤベー、俺ノー勉……」
「……月曜からリスニングとかマジだりー」
ちょっと待って、今日ってエイプリルフールとかだったっけ?
マジ意味わかんねー。
ロディが死んだって何だよ。
てか、外野うるせーよ。
スマホの中と周りとの温度差に、沸々とした怒りさえ湧いてくる。
頭の芯の方がジンジンと痛むような気がする。
俺の足りない頭では情報処理が追いつかず、まだ『悲しい』という感情まで到達しない感じだった。
スマホに表示されるメッセージは、英語をはじめ様々な国の言葉が使われていて判読できないものも多かったけれど、R.I.P.となっているのは、そういうことなんだろう……。
けど、何でみんな直ぐに受け入れられるんだよ。
軽々しくR.I.P.とか言ってんじゃねーよ。
どいつもこいつもクソだな……。
俺がスマホに齧り付くようにして逆ギレめいた言葉を呟いていると、傍らから聞き覚えのある中音域の声がかかる。
「……この不良少年」
その声はセリフの割に穏やかで、混乱している俺の頭の中に柔らかく響いた。
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