うたっている、うたっている。

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 ***  さて、それを踏まえた上で話を聞いてほしい。  私と妹はいつもお互いの友達と一緒に遊んでいたが、そのうちの一人に“鰻亞世(うなぎあよ)”という変わった名前の女の子がいた。亞世、と言う名前だけなら今時珍しくないかもしれないが、鰻という苗字を聞いたことがある人はそうそういないのではなかろうか。  そのせいか、学校で彼女は亞世という名前と並んで“うなぎちゃん”と呼ばれることも少なくなかった。本人も響きが可愛いせいと、鰻が大好物なせいでそのあだ名を気に入っていたように思う。  亞世は、私のクラスメートだった。  小学校四年生、マイペースで穏やかな性格で、いつもニコニコしている女の子だ。四年生になってから仲良しになった彼女には、私と同じく妹がいた。鰻真世(うなぎまよ)。年は、妹よりも下の四歳。年の離れた妹のことを、亞世はとても可愛がっている様子だった。  初めて彼女の家に行った日、私の妹である早織は一緒に行かなかった。たまたまその日風邪をひいて学校を休んでしまっていたからである。  二回目に遊びに行く時、なんとなく早織のことも誘った。彼女の家でやっているゲームが、当時学校で大流行しているものであり、早織もやりたいかもしれないと思ったのである。 「いく!さおりちゃんもいく!」 「おっけ。……あ、でも亞世ちゃんの家には、早織より小さな女の子がいるんだからね?早織、その女の子の面倒見れる?お姉さんとして優しくできる?」 「できる!さおりちゃんお姉ちゃんだから!」  えっへん!と小さな胸を張って言う彼女は実に頼もしかった。私は彼女の手を引いて、亞世の家に遊びに行ったのである。  鰻亞世と真世の家は、小さな一戸建てだった。亞世から聞いていた話によると、元々は祖父母の家だったのを引き継いだとのことらしい。祖父母はかなり早くに亡くなってしまい、同居できた期間は短かったという。  相続とか遺産とか、難しいことはよくわからない私だったが、そのまま住むことができているということは親戚と相続で揉めるようなこともなかったということなのだろう。家の建物は小さいのに、庭はやたらと広い。広い敷地のど真ん中に、何故かぽつんと家が建っているという妙な構造だった。それこそ、まるで犬用のドッグランでも作ってあるのかと思ったくらいのは。 「香織ちゃん、早織ちゃん、いらっしゃい」 「おじゃましまーす!」  亞世と真世の母は、二人にそっくりの優しそうな人だった。いつも穏やかな声で話し、私達がちょっと食べたこともないような高級なお菓子とジュースを出してくれる。
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