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小さき声 叫び
担任の初澤聡が選んだ合唱曲は『きこえる』だった。
クラスの合唱祭戦略委員会は、『Chessboard』を選んだ。
課題曲は『Replay』だ。全校生徒が必ず歌う。それに、プログラムの最後には全員で校歌を歌う。
「絶対に、Chessboardです!」
人口減少著しい限界集落。我が母校掛田中学校は今年で廃校が決まっていて、3年は1クラスしかない。
2年は、ギリギリ2クラス。1年はなんと6人しかいないし、全員男だ。だから、3年と1年は合同。
最後の合唱祭は、地域の芸能発表会と合同でホールだけは立派な掛田中学校スクールコミュニティ地域活動ホールで開催することになったのだ。
「絶対にChessboardです!」
大事なことだから、合唱祭戦略委員会委員長は2度言ったのだ。
俺は、戦略委員会委員長のその訴えを教室の端で聞きながら校庭を見ている。
2年の男子は体育でサッカーに夢中だ。女子は、陸上競技で種目はハードルのようだ。
アイツらは、1組は『エール』2組は『栄光の架橋』を歌うことになっている。俺には年子の双子の妹がいて。1組と2組にバラバラに在籍している。
合唱祭のトップバッターは2年1組。その次は2組。最後は3年と1年の合同チーム。
合唱祭戦略委員会委員長が、『Chessboard』を選んだ理由は聞いてもよくわからない。Nコンの課題曲だったとか。髭男が作ったとか。薄ぼんやりした選考基準だなって。
なんなら、課題曲の『Replay』もNコンの課題曲だし。
最後の最後に課題ばっかりこなさなくてもってぼんやり思う。
担任の初澤が、『きこえる』を選んだ理由は、1年といっしょに歌うし、ソリストが必要な歌であって、合唱曲としてそれぞれのパートに見せ場があるということ。声変わり前の1年にもアルトパートでいっぱい頑張らないといけないところがある。
別に見せ場なんていらないけどなってぼんやり思う。
「大友、どう思う?」
初澤はいつもこういう時、俺を指名してくる。
クラスメイト20人が俺に“『Chessboard』に清き1票を”という目を向ける。
「……どっちでも。」
20人がどんよりとした顔をした。
「大友…。」
初澤が俺に向かってため息混じりに言った。
「初澤の選んだやつ聞いたことねーし。てか。『Chessboard』もあんま知らねーし。」
俺はいつも、こんな調子だ。
でも、
「確かにそうか。」
初澤がそう言って、みんなの前でスマホをいじり出す。
「みんなもYouTube見ろよ。スマホもってんだろ?『きこえる』はひらがなだからな。俺ちょっと『Chessboard』聞くわ。」
初澤は、この春からうちの中学に来たのに“学校にいる間スマホを見てはならない”という学校のルールなんかガン無視だった。
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