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彼女は歌う、魂のこもった情熱的な声で、高く低く。
心が揺さぶられる。
胸の奥に熱いものが込み上げる。
目頭が熱くなる。
彼女は歌う、濁った恐ろし気な声で、高く低く。
心が軋む。
胸の奥で不安が頭をもたげる。
逃げ出したい気持ちになる。
彼女は歌う、澄んだ優しい声で、高く低く。
心が穏やかになる。
胸の奥に安堵が広がる。
眠りの神が眠気を連れてくる…。
ここは創作の世界とは違う現実の世界、ここに魔法など存在しないと言うけれど。
歌、それは太古からの魔法の一つに違いないのだ。
人も獣も植物さえも、惹きつけられ、その歌に操られる。
「おまえが歌う現場につきあってると、こっちまで情緒不安定になって困るな。」
「えええ、しかたないでしょ、そういう現場に行きあたるんだから…そういうの、あなたが呼びこんでるんじゃないの!?」
「まあ、運は悪い方だ。」
「歌うのは好きだから、許す。」
「そりゃ、どうも。」
現代の魔女たる彼女が活躍する、音に彩られた一日が、今日も終わろうとしている。
「そろそろ帰るぞ。」
「うん!」
(終)
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