たくらみ

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たくらみ

*下地が積極的にアプローチしてくるのに、福山は困っていた。 福山は下地には興味はなかった。むしろ、久美に対して気になるところがあったのだ。 翌日、福山医療機器開発株式会社にて、秘書の鈴美と話し合っていた。 「鈴美さん、困ったことになったよ」 「もしかして、下地先生のことでしょうか」 「そうなんだ」 「僕にどうやら好意があるみたいで」 「昨日はデパートに行って、その後食事をして、しまいにはバーで付き合わされたんだ」 「新型MRIはわが社が独自に開発した、いわばうちの目玉商品だから営業のため仕方なくてね」 「どう、対応すればいいか苦慮していてね」 「それは、辛いですね。社長」 「ところで、他の医療機関での営業はどうなっているのかな?」 「それが、村原営業部長の話だと、全然、相手にされてくれないみたいで、唯一の望みが白木川総合病院だけなのです」 「それは不思議だな……あの製品は優れているのだけどね」 「村原君はちゃんと営業しているのだろうか」 「理由がわからないですね。社長」 *数日後に福山は病院に営業に行った。下地は福山に夢中だった。 「社長、どうやら、内科の斉藤先生も製品をとても気にいってくださったみたいよ。うちの病院は開設したばかりだから、あのMRIを最初に取り入れたいの」 「それに、他の病院にもあったら、遅れをとるからと斉藤先生が言うのよ」 「私がなんとか、するから。心配しないで、福ちゃん」 「それは、ありがとうございます」 *そこに、久美が現れた。 「花束を落としましたよ」 「あら、どうして久美さんが」 *下地はすぐさま、看護師の田中を呼んだ。 「田中さん早く来て」 「わかりました」 「久美さんと後で診察をするから打ち合わせが終わったら呼んでちょうだい」 「はい」 *下地は久美に対しての対抗心が強いようだ。 打ち合わせ後の診察において 「久美さん、あなたは福山社長に何か気持ちがあるのかしら?」 「いえ……」 「そう、それなら、いいわ。そういえば、あなたは幻覚や幻聴があるの」 *久美はこれ以上、嘘をつくのが難しいと思った。 「いえ、実は事情があって……」 「私はそのような症状はありません」 「駄目よ。そんな嘘をついたら駄目よ今日から特別室で治療方法を変えるからね」 「わかったわね」 「はい」 「でも、私は本当に嘘をついていました」 「駄目よ、田中さん、田中さん」 「早く来て、久美さんを保護室に入れて鍵をしてちょうだい」 「わかりました」 *保護室で下地は何かをたくらんでいたようだ。 「田中さん、あの薬を使って」 「え、先生あれは効果が強い薬で副作用が大きいのではないでしょうか?」 「いいから、私の言うことを聞いて」 「はい……」 「それから、明日から朝食後に睡眠導入剤を味噌汁にまぜていれて」 「先生、それは……」 「あなたは、私の紹介でこの病院には入れたんでしょ」 「このことは誰にも言ったら駄目よ」 「はい。下地先生」 *翌日になって、下地は久美の様子が気になったようだ。 「おはよう。久美さん、昨日は強く言い過ぎてごめんね」 「私はあなたの味方だから」 「ここから早く退院できるようにお互いに頑張りましょうね」 「そのためには、ちゃんと食事と睡眠をとって治療に専念しましょう」 「はい……」 「病院の食事は塩分を控えめにしてあるから、薄味だけどちゃんと食べてね」 「はい……」 *久美は悩み苦しんだ。 そうよね 私が嘘をつくからいけないの 早く退院しないと、お父さん、お母さんが心配しているじゃない。 どうしよう…… *久美の診察時において 「久美さん、カウンセリングの時間よ」 *朝食の時の睡眠導入剤の効果が表れたようだ。 「すみません。先生、なんだか眠気が強くて……」 「あら、おかしいわね。昨日はちゃんと眠れたの?」 「睡眠が大事なのよ」 「ちゃんと眠れたはずなのですけど」 「そう、仕方ないわね」 「ベッドで横になっていなさい」 「夜はちゃんと寝るのよ」 「はい……」 数日が経過した。久美は下地に訴えた。 「先生、夜が全く眠れません……」 「その代わり日中がとても眠くて」 「それは、昼夜逆転というのよ。ちゃんと規則正しくしないと駄目よ」 *睡眠のとれない久美の精神状態は限界に近かった。 「それに、壁の向こうから声が聞こえたりします」 「それは、幻聴というものよ」 「いえ、私は本当に嘘をついてここに入院してきたのです」 「退院させてもらえないでしょうか?」 「駄目よ」 「あなたは、幻覚や幻聴、妄想などがあるから、しばらく入院が必要なの」 「先生、お願いします」 「退院させてください」 「わかりました、後でちょっと検査をしてみましょう」 「はい」 ナースステーションにて下地はあるたくらみをしていた。 「田中さん、佐藤さん」 「今から、あの休憩室の奥の壁に大きな時計があるでしょ」 「そこの下に立っていて」 「どうしてですか?」 「いいから、私の言う通りにして」 「はい」 *田中と佐藤は困惑していた。 「田中さん、下地先生は何をするつもりかしら?」 「わからないけど言われた通りにしないと下地先生は怖いから」 「そうね」 *そして、下地のたくらみが始まろうとしていた。
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