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ふたり
*福山はしつこい、下地からのアプローチに悩まされ続けていた。
そして、鈴美に相談したのだ。
「いやあ、鈴美さん実はね下地先生から……」
「やはり、そうでしたか……」
「私の口から何とも言えません」
「あの、新型MRIは福山さんの夢ですよね」
「そうなんだよ、そうなんだよ。このままでいいのかわからないんだ」
「社長、思いつめないでください」
「そういえば、近くに鉄道公園ができました」
「気晴らしに入ってこられたらどうですか?」
「そうだね。そうしてみるよ」
*鈴美は福山に想いを寄せていたのだろうか?
「私は社長の優しい笑顔を見られることが一番幸せです」
「ありがとう」
「鈴美さん」
*福山は鉄道公園に向かった。
ここか、新しく出来た公園とは敷地の中に二台の機関車が置いてあるのか
もう、夕日が沈むな
この機関車も昔は頑張って活躍していたんだろうな
今の僕はなんだ、なんなんだ
ここにおいてある機関車と同じでただの飾り物じゃないか
僕がいなかったら新型MRIは見向きもされないのか
夢を取るべきなのか、それとも自分の心をとるべきなのか
僕は通勤の途中や仕事の途中ふと考える人がいる
どうすればいいのだろうか
おや、あそこの列車の空きスペースに座っているのはもしかして
どうして・・・
久美さんじゃないか
*二人は偶然にも出会った。
「久美さん」
「福山さんじゃないですか」
「そうだよ」
「どうしたのこんなところで」
*久美は感情を押し殺すことができなかった。
「私、私……」
「わあああ」
「どうしたの、泣かないでいいよ」
「隣に座るよ」
「どうしてここにいるの?」
「たまたま病院に営業に行って先生から聞いたのだけど、病院に帰らなくてもいいのかな」
「今日は花束は落ちていません」
「いえ、今まで嘘をついていました」
「助けてください」
「私はどこも悪くありません」
「ただ、父の会社が経営状態が悪いのに私を大学に進学させようとするから」
「わあああ」
「落ち着いて話してごらん」
「ゆっくりでいいから」
*久美は事情を詳しく福山に話した。
「そうだったんだ」
「しかし、困ったことになったね」
「家に帰ったら警察の方達が大勢いて」
「ここに逃げてきました」
「どうすればいいのでしょうか?」
「そうか……」
「でも、すぐにここにいることは分かってしまうね」
「はい、恐いです」
「大丈夫だよ。それまで僕がそばにいるよ」
「どうして、私はこんなことをしてしまったの」
「お父さんやお母さんを悲しませて」
「病院には迷惑をかけて……」
「私は駄目な人間です」
「ただ、今の私は鏡に映った偽りにすぎません」
「いや、僕もね、夢のためとはいえ、自分を売ってまでして……」
「ごめんね。話せば長くなるから」
「ほら、空をみてごらん」
「満天の星空だよ」
「天の川も流れている」
「ここにある、古い列車も昔は活躍していたんだよ」
「僕達は気っと解決できるよ」
「そして良い方向にいける」
「必ずそうなるから」
「ほら、これで涙を拭いて」
「はい、ありがとうございます」
「僕がそばにいるよ」
「はい」
*警察がようやく、鉄道公園にいる、久美を発見した。
「おい、いたぞ、彼女じゃないか」
「はい、私です」
「ごめんなさい。病院へ帰りますから」
「君は誰だね」
「彼女と知り合いです」
「僕が送っていきますので、ご心配なく」
「さあ、帰ろう」
「はい」
「久美さん、僕が必ず助け出すから待っていて」
*久美は白木川総合病院に帰った。
「あら、久美さん」
「どこに行っていたのかしら?」
「どうして、この保護室から逃げ出せたの?」
「それは言えません……」
「わかりました」
「今日から治療方針を変えますから」
「しばらく入院期間は長くなるかもしれませんよ」
「わかりました……」
*福山は思い悩む
僕はどうすればいいんだ
ああ、言ったものの
何もできないじゃないか
翌日になって。
「下地先生、福山社長がお見えになりました」
「すぐに通して」
「はい」
「あら、福ちゃん会いたかったわ」
*福山は決心した。
「下地先生、久美さんと面会したいのですが」
「どうして?彼女は精神状態が悪くて今は面会できません」
「何かあったのかしら? 福ちゃん?」
「いえ、会わせていただけないでしょうか」
「あら、福ちゃん、MRIはどうでもいいのかしら」
「そういう訳ではありませんが、僕は彼女に会う理由があります」
「今日は駄目よ」
「そうですか、私は今日は帰らせていただきます」
「福ちゃん、どうして……?」
「それでは失礼します」
「福ちゃん……」
特別室にて、下地の嫌がらせが始まった。
恐い、どうして電気がつかないの
壁から物音がするし
福山さん
助けてください・・・
*病院内にて動きがあった。
「下地先生、話があります」
「あら、斎藤先生どうされましたか?」
「久美さんを退院させてあげてください」
「彼女は精神的な異常は無いのではないでしょうか?」
「あら、どうして?」
「精神科医である私にそのような事が言えるのですか?」
「しかも、斎藤先生は内科医で彼女とはまだ会ったことはないはずなのに」
「実は精神科の看護師から久美さんのことを聞きました」
「可哀そうではないですか」
「誰が先生にそのようなことを言ったのですか?」
「それは言えません」
「私も精神科医としてキャリアもプライドもあります」
「先生からそのようなことを言われる筋合いはありません」
「福山さんのことも聞きました」
「だから、MRIのことで私に近づいてきたのですね」
「いえ、それは誤解です……」
「それに、MRIの件はもう理事長からの決済はいただいています」
「もう、斎藤先生には関係ありません」
「私には一人娘がいました」
「久美さんと同じくらいの年頃でしたが、事情があって自ら命を落としてしまいました」
「そうでしたわね」
「可哀そうでしたね」
「私はあの頃は仕事しか頭にありませんでした」
*斎藤は事実を話し始めた。
「それと久美さんと何の関係があるのですか?」
「実は保護室の鍵は私があけました」
「もう、同じことを繰り返したくないからです」
「娘は心の病にかかっていました。私はそれを見抜けなかった」
「私がいけなかったのです」
「それで、斎藤先生はどうされるのですか?」
「病院内で内部告白します」
「理事長にも全て話します」
「ふふふ、もう遅いわよ」
「理事長先生もね。いろいろあるのよ」
「わかりました……」
「ふふふふ」
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