救い

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突然、何を言い出すんだろうと思いながら素直に思ったことを口に出すと、響さんの手が止まった。 「お前さぁ……」 「はい?」 「いや、なんでもねぇわ」 「なんですか?気になるんですけど」 響さんは何か言いたげに口を開きかけたが、すぐに口を閉ざしてしまい俺の問いには答えずにまたスマホに視線を落としてしまった。 時々、響さんは何かを言いたげな視線を投げかけてくる時があるけど結局何も言ってくれない。 何を考えてるんだろう。 もっと、響さんの事を知りたい。 そんな思いが沸々と湧き上がってきて、俺は居ても立っても居られなくなった。 「響さん」 「ん?」 「俺、響さんのこともっと知りたいです」 勝手に出てきた言葉に自分でも驚いて慌てて口を押さえる。 距離を取ろうとしてるのに、逆に近ずこうとしてどうするんだよ。 自分に突っ込みながら、響さんの顔を見ると目を大きく見開いてこっちを見ている。 顔がじわじわ熱くなってくるのを感じるし、視線が痛い。 「なんだよ急に」 「いや、あの……その、知りたいっていうのは」 動揺してしどろもどろになってしまう。 「お前、変わってんな。急に知りたいとか言わねぇだろ」 テーブルの上にあった煙草を手に取り、口にくわえ火をつけると煙を吐き出しながらふっと響さんが笑った。 もっと知りたいと思ったけど、よく考えたらいきなりこんなこと言うのは変だし、俺は何言ってるんだろう。 「すいません!忘れてください」 恥ずかしくなって響さんから視線を外した。 顔が熱くて仕方ない。 「別に謝らなくていいけど、俺のこと知ったところでなんもねぇぞ」 「そんなことないです」 響さんは困ったように眉を下げて苦笑いし、少し考えるように間を置いた。 「まぁ、知りたいならまずはお前から話すんだな」 「俺ですか?」 響さんは頬杖をつきながら、煙草の煙を吐き出し目を細めた。 「毎回、優希が一人で喋ってるだけでお前、自分のことあんま話してねぇだろ。」 「……そうかもしれませんけど」 「俺はお前のことほとんど知らねぇ。相手を知りたかったら、まずは自分のことを話すべきだろ?」 一理あるんだろうけど……。 自分のことを話すのは昔から苦手だった。 知られたくない秘密をうっかり口にしてしまったら、と想像すると怖くなって保守のためにいつも聞き手に回っていた気がする。 でも、何を話せばいいんだろう。 何をどう切り出せばいいのか分からなくて言い淀んでしまう。 「なんで黙んだよ。そんなに悩むことじゃねぇだろ。自分のこと話すのそんなに嫌なの?」 俺は首を横に振る。 「嫌とかじゃないんですけど……」 「じゃあ、なに?」 「その、話すのは苦手で上手く話せるかどうか」 「なんだそれ」 響さんは呆れたように笑い、俺も苦笑いしながら俯いた。 「別に上手く話そうとしなくてもいいだろ。思ったこと言えばいいんじゃねぇの?」 思ってることを口にすればいいのか。 それが出来てたら苦労はしないんだけどな、と心の中で呟いて響さんの顔をチラッと盗み見ると、早くしろと言わんばかりにこちらを見ていて、慌てて口を開いた。 「好きな食べ物はカレーです」 「ん?」 「あと、猫とか動物が好きで!あとはうどん……」 「いや、そこじゃねぇよ」 響さんが眉を顰めて俺の言葉を遮る。 「お前の好きな食べ物も猫が好きなことは優希と話してんの聞いてんだから、分かるって」 「あ……」 そう言われてみれば、この前、優希さんに聞かれた気がする。 というか、勝手に聞き出されたって感じだけど。 「もっとなんかあんだろ?」 「うーん……」 必死に頭をフル回転させて考えてみるが、何も浮かんでこなくて焦りだけが募って視線を彷徨わせる。
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