出会い

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男は一瞬、驚いたような顔をしたがまたすぐに表情を戻し俺を見つめたまま黙っていた。 その目は何もかも見透かされているようで居心地が悪く、それが余計に俺を苛立させた。 震える手で拳を作り強く握りしめ叫んだ。 「何にも知らないからそんなこと言えるんだよ!俺がどれだけ辛くて苦しいかなんて分からないくせに!!」 捲し立てるように言い放つ俺とは逆に、落ち着き払った様子で煙草を地面に押し付ける姿が怒鳴ってる自分が馬鹿らしく思えるほど冷静だった。 「あぁ、分かんねぇな」 男は低い声で吐き捨てるように呟く。 「は?何言って……」 男は無表情のまま淡々と言葉を紡いでいく。 「俺はお前のこと、なんも知らないから分かるわけねぇよ。それに分かりたくもねーんだけど!」 「……じゃあほっとけばいいだろ!構うなよ!」 男の胸ぐらを掴もうとするが、その手は空を切り男は俺の腕を軽くいなした。 「はい、そーですかってわけにはいかねぇだろうが」 男は面倒くさそうに深いため息を吐いた後、俺に鋭い視線を向けた。 なんなんだよ。分かりもしないのに……俺のことなんて、誰も分かってくれない。 なのに、分かってほしい。 矛盾した気持ちの渦に囚われたまま怒りは治まらずに、どんどん溢れ出て抑えきれない。 「分かるはずないんだ……っ……同性が好きってだけで気持ち悪いって言われてゴミみたいに扱われたりしたことないだろ!!あんたみたいな奴には分からないよな!」 涙が滲み視界がぼやけ始める。 「俺がおかしいから……諦めて、我慢して辛くて………苦しい。もう、こんなの嫌なんだ!俺が死んであいつらを後悔させてやるんだ!!」 止まらない涙と一緒に言葉が吐き出され、嗚咽が口から漏れるのを咄嗟に手で押さえ込む。 男の瞳が一瞬揺れたように見えたけど、変わらずに黙って見ているだで、それが余計に癇に障り俺は男を睨みつけた。 「俺が……死にたいと思って何が悪いんだよ!お前に何ができる!何もできないくせに口出しするなっ!!」 言い放つとさっきまで、淡々と表情一つ変えずに話していた男が初めて大きく目を見開いた後、目を伏せながら静かに呟いた。 「俺はなんにも出来ないか……あいつもそんなこと思ってたのかな」 強い風が吹き抜けていき、その言葉はよく聞き取れなかったけど、切なさを含んだ声色だった。 これ以上、みっともない姿を晒しそうで居た堪れなくなった俺は嗚咽を必死に飲み込むようにして立ち上がり去ろうとすると突然腕を掴まれ尻餅をついた。
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