1章 18年後の"彼ら"

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3話 少年たちの「日常」 其の三  そして、今。 「なぁなぁ、見ろよ。 今月の科学雑誌『アルバート』の表紙。 お前の父さんが表紙だぜ」 あぁ、見つけてしまったかぁ……。 「『悲劇の科学者 細胞研究で新発見』。 すげぇよな、熱意があるからこそ世紀の大発見と言える研究しちまう訳だ。 で、何か知ってる事ないのかよ。 次の研究内容とか!」 こうなると面倒である。  この男は確かに凄くイイヤツだ。 イイヤツなのだが、人懐こいことと好奇心が相乗効果を生み、しつこくなることがある。 「前にも言ったけど、父の研究内容なんてよく知らないってば。 そんな世界的研究を行っていたのも初耳だ。 家に居る時は、料理も録にできないぐうたらさ」 面倒に絡まれまくるのもイヤなので、適当に軽くあしらう。 だが、コレでもスッポンの如く噛み付いたら離さないのがコイツの悪癖だ。  「にしたって壱馬ぁ、お前自分の父について知らなさすぎだろう。 桐村琢馬と言えば細胞研究の第一人者。 そして18年前の殺人事件。 不当に容疑者疑惑が立ち、研究と将来が一度フイになった悲劇の経歴のその人だ」  「その容疑をかけた警察の子がよく言うなぁ。 父を取り調べしたのって君の父、聡さんだろ? 父と被害者に接点があったって」 自分の父が悲劇の作り手と思うと、翔作もバツが悪いらしい。  「んまぁ……それもそうだなァ。 被害者の女性に、琢馬さん浮気されフラれたばっかで。 そりゃあ最重要参考人になるさ。 証拠不十分の不起訴とは言え、動機は十分だったかんな。 犯人の持ち去った『切り取られた体の一部』が発見されることなく、犯人につながる証拠すらスッカラカン! 今に至るまで犯人は捕まってないし。 もう事実上迷宮入りなんじゃあねーかなぁ〜。 依然として、今も父さんは独自に調べているみたいだぜ。 どうも執念ありありのご様子さ。 一途でよろしいこって」 顎の細く堀の深い、まるで彫刻像のような端正な顔をこちらに向けながらハキハキと言った。 「はいはい。当時の事件のことは分かったから。 なんにしても僕は父のことに関してはよく分からない。 ただ無口で不器用ながら、僕を引き取り育ててくれた。 それ以上でも以下でもないよ」  心の奥底でズキッとした痛みが走る。 同時にそれは『養父とは契約上の父と子でしかない』ということの裏返しでもあることを自覚しているからだろう。 不器用ながら苦労して育ててくれたことは、確かに親としての責務を果たそうと努力をした証なのだろう。 ふと逡巡とそんなことが脳内に流れる。 「けれど!け・れ・ど!世間はそうじゃねぇんだぜ。 壱馬や桐村博士を知るものの世間では、ぐうたら養父かもしれねぇ。 でも、彼を知らない者同士の間に限定した世間ではな。 "容疑者"であり"天才科学者"なのさ」 机をバンと両の手のひらでたたき、身を乗り出して翔作は発言した。
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