1章 18年後の"彼ら"

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5話 つくりものの義姉 _____。  切りが良いところまで進めて、閑散とした図書館の出入り口まで来た時……  「あらあら、あなた達もいたの。 去年は課題をろくに提出しなかったのに、心を入れ替え健全で清廉な勉学少年にでもなったの? もし本当にそうなら驚天動地ね」 突然に声をかけられた。 「由希乃、来ていたのか」 声がする方を振り向く。 真っ黒な長髪を束ねた、どことなく動物のような雰囲気の漂う、鼻筋のすっと通った女性、北条(ほうじょう)由希乃(ゆきの)が立っていた。 170近い身長に加え、いつも自信のありそうな顔立ち。 一層背が高く見える。 由希乃は僕と同じ孤児院の出身であるが、そこは郊外の狭いコミュニティ。 お互いが養子として迎えられても、家はそう遠くなかった。 中学こそ別だったが、同級生な上、たまたま進学先も同じだった。 小学校の頃など壱馬がいじめられている時に、翔作と二人で助けてくれるのは、当時お決まりの流れだった。 そしてその度に姉のような振る舞いで励ましてくれた。 時間を積み重ね続け、お互い他人より気心は知れていた。 双子の姉弟のような間柄がすっかり定着した。 その証拠によくねえちゃん、ねえちゃんとは呼んでいたし、とっさにそう呼ぶ時がある。 逆に由希乃から弟扱いされていることも理解している。 同じ学年であるにもかかわらず、姉のような態度を取り続けるのは長年で築き上げられてしまった上下関係の賜物だろうか。 若干納得がいかないもののそうひっくり返せるものではない。  「気づかないようだから、ちゃあんと声掛けてあげたの。 あっさりした反応過ぎはしない?壱馬。そんな弟に育てた覚えはありませんよ」 と、パッチリした目で睨みを聞かせる。 「お姉さん風を吹かせるのはここまでにして。あなた達がいるにしては珍しい場所じゃない。 で、課題は終わったの? きちんと済ませないとまた黒田先生に怒られて空っぽの教室であなた達二人、今年も連日おデートよ」 早速お姉さんのようなお説教。 「相変わらず口うるさいなあ、小言ばかり言うとシワが増えるよ。 テキストはあらかた終わったよ。見せたっていいくらいさ。 あと、これからいつものところに行くところだけど、来るかい」 「あらぁ、じゃあお邪魔しようかしら。美味しいお茶菓子が楽しみね」  こうして自転車を押しながら、拓けた住宅地の変哲のない一本道をだらだらと、だらだらと3人で目的地である和菓子屋へと歩むことにした。  街唯一の和菓子屋、白狼房。その場所へと。 7月30日も夕暮れ前の時間であった。
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