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1、面談開始
私は、自分の歳も分からないんです。
絶対に先生より年上。それは分かっています。
ヒカルは4000+……分かりません。忘れてしまいました。
桃花はヒカル−2歳。
そう考えるとカケルは、ヒカルが産まれた時アラフォーだったと思います。
私は年齢詐称です。幾つだか分からないのにカケルと出会った時は10歳ぐらいの子供の『衣』を着ていました。それで、カケルと自己紹介をしあった時に「10歳。」という嘘を平気でつきました。
私が「私というふもの」に気がついた時には、穂月が乳母として側に居ました。
私は、空を見上げては泣いていました。大声で泣くと穂月が抱っこしてくれたから………最初の記憶は、3歳ぐらいのことだったと思います。
何が悲しくて泣いていたのかは思い出せません。ただ、寂しくて悲しかったのです。
少し大きくなると、王族教育が始まりました。偉そうな身振りと物言いを仕込まれました。そして、大人になったら「女王様」になるんだと口を酸っぱくして穂月が私に命令してきました。
私は普通の女の子です。威張った物言いも身振りも嫌でたまりませんでした。正直に「ヤダ。」と言うと穂月が「そうなることは父君の目から生まれた時からの定めなのです。」と今と同じように私に命令したのでした。
私は中々、大人になりませんでした。身体の成長も遅く、頭も悪く、字は読み書きができません。
どんなに優秀な教師がついても、私は字が読めません。書けません。今もそうです。普通の方の5倍は時間がかかってしまうのです。
それでも、身体の見た目が大人になれば、執務をしなければなりません。私は私である前に「女王様」なのですから。
穂月は、どこかの時点で「読み書きができる私」に見切りをつけました。
それで、「けつじゃう」は、ああいう形になっています。口述2柱、筆記2柱+イチキです。あ、と言うことはイチキは私より年上かもしれません。
大人になってからは、躾けられたように役目をしてきたのです。
「貴方様は、日本の主祭神。1番責任が重いのです。」それはもう、毎日毎日耳タコになってしまうほど、穂月に言われました。
同じ年頃の友達と遊んだこともなく、見た目大人になってからは「お役目」の奴隷です。
朝儀のメンバー、内閣のみんなは私のファンなんだそうです。毎朝、毎朝、オシカツされてるのかなぁと思うと複雑です。みんな、優秀で私が足りない分、頑張って働いてくれています。本当は、ニッコリして「ありがとう。」と言いたいのに、それさえも禁止なんです。
私は、いつも偉そうに腹の底から声を出して、自分のことを「我」という一人称で話さなければならないのです。
せいぜい「よくやった!」という言葉で労うことしかできません。
私は、この高天原の象徴であり最高権力者だから、下に見られてはならない存在なんだそうです。
最高権力者は「決める」ことが仕事です。下手を打った時には、自分の代替案で対処することを求められます。
それは不得意ではありません。今まで何とかなってきました。不確定要素があっても決めることは決めます。
それを私は「博打」と呼んでいます。後、もう一つ、耳タコ言葉がありました。それは……
「貴方様は、人間を見守るのがお仕事です。」ということです。
私は、本物の「人間」を見たことがありませんでした。「そう言われても、見たことないモノを見守るって何?」
その疑問は、日を追うごとに大きく大きく育っていきました。私が居なくなると世界が暗闇になると脅されていましたから、人間世界に勝手に行ってはいけないと思っていました。
たまたま、私が癇癪を起こして、天岩戸で引きこもっていた時に日食が起こったことが伝説化してしまい、今でも古事記に晒されているのは我慢なりません。私といえばイコール天岩度。本当にプライバシーもあったもんではありません。
あの古事記という書物は、私と素戔嗚が喧嘩して仲直りに彼奴と子を設けたなどということまで書いてあって、私は作者を訴えたいくらいです。
古事記は口述者に読んでもらいました。
本当は、サシで殴り合いの姉弟喧嘩です。ほぼ毎日。私がいつも勝っていました。最後には、あやつが逃げて勝負はついていません。
みんなが言うほど、私は大した存在じゃありません。自分でも分かるのですよ。そういうのは。
人間は私のことをどう思っているのか知りたかった。で、私は、勝手に人間を見に行こうと決めたわけです。
誰にも言いませんでした。だって、言えば止められるに決まってるでしょ?
私の正装の中の冠を玉座の上に置いて、水晶の玉のペンダントだけして夜中にそっと王宮から逃げ出しました。
最初は『気』だけで、バスの中から社会科見学というか車窓観光というか、その程度にしておこうと思っていました。7日ぐらいで帰るつもりでした。
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