3、声

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私がカケルとのセックスを忌み嫌った理由は、行為そのものが野蛮だったことと、もう一つの出来事を伴っていたからだ。 カケルは私を抱きながら、頭に他の女を思い描いていた。そして、身体を動かしながら、その女の名前を呼んでいた。 カケルの前の女房の名前、「ヌチ」。ヌチ、ヌチと言いながら私の上に乗って動いていた。 私はカケルの頭の中のビジョンも見えていた。ヌチの顔も知っている。ヌチがどんな女かも知っていた。 あんな人間の穢れ者の身代わりにされていた。 私は誇り高き「高天原の女王」なのに、こんな人間の男に支配され、支配している男は釣り合った前の女房を想いながら私を抱いている。 これだけは許す余地が全く無かった。 このヌチが安達実果なのだ。カケルとヌチは運命の相手だ。(よう)を辱め惨殺した安達実果。 あの女も現在に至るまで全く変わっていなかった。容姿も心の醜さも。 なにがどうなって、そうなったのか分からないが、今のヌチは「黄泉国の魔物」だ。あの女も最早、人間ではない。 アオイは、驚きで声も出なかった。 4000年という過去の話が今に繋がっている。 「君は、人間の頭の思考まで読めるの?」 「ヒヒカリのような読心はできません。でも、本質は見えます。色です。 先生は赤。本質はブレが無いです。人間ならば、必ずブレがあるのに無い。私は気が付かなかったんです。先生を召し上げるまで。 24年間、何度も先生を見ましたた。方向は変わってもブレはありませんでした。素粒子を扱う赤族にまんまと騙されました。 早川葵という人間。 先生は完璧に『人間として構成された柱』だったんですよ。さすがは組長。素粒子を構成するのはお手のものですね。 先生とは対照的に存在するのがカケルなんです。 カケルの本質は「透き通った(ぎょく)です。青い気の色の中心にこれがあるんです。 カケルの行いとは裏腹にカケル本体は、とても純粋で無垢なんです。だからカケルを処分することを私は躊躇っていたんです。」
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