4、ひとしき世界

1/3
前へ
/54ページ
次へ

4、ひとしき世界

ヒカルのお産は、カケルが狩猟に行っている間に始まりました。 そんなに痛みもなく、さして問題もなく、私は自分で落とし前をつけました。ほんの2時間です。カケルから聞いたように赤ん坊の臍の緒を切って、神力で温かくした湯で赤ちゃんを沐浴させました。後産も自分で片付けました。身体を綺麗にしてあげたら子供の顔がはっきり見えました。 カケルによく似ていました。 その時は、『肉の衣』を被っていたので普通に黒髪の日本人の赤ん坊。 生まれた途端、「乳をくださいませ。」と言ったのには少し違和感を感じました。 もちろん、ヒカルは男の子です。 カケルが作った機織りきで織った麻布がたくさんありました。カケルは私を外に出したくなくて、赤ん坊を迎える準備は全てカケルがしました。綺麗な布で身体を巻いてもらえる赤子など、あの時代では「王族」です。 当時の社会、村は、「ひとしき世界」でした。 支配者、権力者はいませんでした。冨を蓄財することもできず、日々の大半は食糧確保。集団でそれを行いみんなが分け合って食べる。助け合って生きていました。 冨を蓄財できるようになって初めて上下関係が出来上がるのです。 カケルの両親は、乱交で「セックスの分け合い」さえもしなければならない村の掟に逆らって2人で村抜けをしました。 そして、カケルが生まれましたが、二親は3人分の食料を賄うことができませんでした。 カケルが10歳になる前に病気であっけなく死んだそうです。 カケルの夢は「自分の家族」を持つことでした。 1人になったカケルは餓死寸前の生活から、たった1人で生きてきたのです。前にも言いましたが、一度村に入れて欲しいと村に行ったこともありましたが「抜け者の子」と言われ、突き飛ばされ追い返されました。 弓は父親から習っていたそうですが、最初は何も獲物に当たらなかったそうです。 主に食料は、トカゲやカエルでタンパク源を取り、山菜とドングリで生き延びていました。弓の練習もずっとして徐々に“狩人“と言えるくらいになったとカケルは言っていました。 ものを考えるのが得意なカケルは、長い時間をかけて考えた道具で生活を充実させていったと言っていました。 ひとしき世界では、村の中だけで生殖を行えば、直ぐ近親交配になってしまいます。 近親交配で生まれた子は弱い子供の確率が高いと勘で分かっていたのでしょう。 だから、祭りがあるのです。祭は2、3の村の合同行事です。それ以外にも初対面の男女が身体を重ねるのも当たり前でした。 カケルは、「行きずり」で子供の作り方を学んだのです。 どれだけ遺伝子のバリエーションが違う次世代を生み出すか。それが最優先の世界でした。 「恋愛」などという緩い感情は入ってはならないのです。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加