4、ひとしき世界

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「ひとしき世界」が素晴らしいと私は言っているのではありません。掟を破れば重い罰が待っています。 カケルは親が掟破りだから村に入れてもらえなかった。10歳にも満たない子供が1人で生きていけないのが分かっていても、村の掟は許しませんでした。 それでもカケルは生き延びて大人にになり妻を娶りました。彼の何処に罪があるのでしょう。最初の妻、ヌチは私よりは年嵩でした。 私が彼の記憶の中で見たものは、ヌチの汚い気の色と物に執着する姿でした。たくさんの首飾りをして綺麗な布を肩にかけて喜んでいました。 そ、それと…… (あかり)の息遣いが急変したのにアオイは気がついた。はっはっと呼吸が早くなる。「ゆっくり息をして!」とアオイが言っても(あかり)の発作は止まらない。涙を流して歯を食いしばって胸を押さえている。椅子に座っていた身体が後ろに引っ張られるような動きをすると、そのまま、ずるずると椅子から滑り落ちた。 アオイは(あかり)を抱き上げると寝台の上に横たえた。 よほどの「闇」を抱えているとアオイは推測した。単なるパニック発作だが意識がない。薬もない。横にして休ませて置こうと思った。 「共同体社会」の時代にあって、カケルは自立した個として生きざるを得なかった。 (あかり)は恐らく「本当のカケル」を私に知ってほしいと話を始めたのだろう。神澤翔の人付き合いが下手くそで、女の子に直ぐ振られて、不適切な発言が多かった性格もこの生育歴のせいだと言いたいのかもしれない。 でも、それだけではない。なんとなく分かる。 「裁断の日」まで後10日も無い。カケルには知らされていない。裁断で(あかり)に許されている役割は量刑の決定だ。 すでに、彼の罪の内容は私も全部知っている。求刑に当たるプラン3案も見たが、いくら神の国と言っても厳しすぎる。 人間世界とは違って上告もできない。一回限りの一発勝負だ。 (あかり)の話を聞いて引っかかるところが何点かある。目を覚ましたら、(あかり)が話したかったら話させる。無理はさせない。 日本という国の主祭神の自分にも疑問を持っているようだ。 殆ど嫌気が差していると言った方がいいか。「龍の大暴れ」の話といい、いっそ滅びてしまえと言わんばかりの憎悪を持っている。 社会全体を見れば日本は腐りきっている。私もそう思う。でも、一人一人で見れば命は尊いもので素晴らしい人は沢山いる。日本人は素晴らしい人の割合が高い国だ。そう。割合の問題だけなんだ。 何処の国でも腐っているのは同じだ。国それぞれが村で、自分の村の存続しか考えていないから。国の単位ではそうだ。 単位を人で見れば答えは出るのに、(あかり)は分かっていない。それが分かれば抱えている女王としての問題は解決するのに。
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