5、リョウ

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5、リョウ

リョウは、20歳にして村の狩人頭だった。 端正な顔立ちで弓の腕は村一番。3年前に村のみんなを焚きつけて隣村を襲撃した。 隣村の男どもをリョウ1人でほぼ全員、射殺したことでカシラになった。人殺しは御法度だ。それでも隣村の女子供をリョウの村に吸収したことで、全部がチャラになった。男より女が倍近く多くなったからだ。 男どもはウハウハもんだ。 でも、リョウの心には大きな穴が開いていた。本当に殺したかった奴を殺せていない。 あの女はナノハの持ち物を全部持って逃げた後だった。俺があげた首飾りもあの女が持っている。 ナノハの妹ヌチ。あの女は今頃何処にいるんだろう。 リョウとナノハは「祭り」で出会った。4年前だ。2人は同い年で、生きていればナノハも20歳だった。 村では男も女も誰彼かまわず子作りする。ナノハはナノハの村で。リョウはリョウの村で。2人で抱き合えるのは「祭りの日」しかなかった。リョウは、ナノハが他の男に触れられるのが嫌だった。 ナノハは村の掟を破るような女じゃなかった。その顔立ちと同じく優しい性格で、どんなに年寄りの男でも相手をしていた。 だから、ナノハは隣村の「売れっ妓」だった。 ナノハには妹がいた。名前はヌチ。 同じ母親から生まれたとは思えない大したことがないツラをした女だった。性格の方がもっと悪くて、人様のものを欲しがる性悪女だった。 盗みも大罪だ。だけど、ヌチは「借りる」。借りて返さない。 流石のナノハも「ヌチ、オレが貸したもんがいっぱいあるだろ。返してくれよ。」という事が度々あった。特に、リョウからもらった首飾りだけでも返してもらいたかった。他のものは全部あげてしまっても構わないと思っているほど、あれだけは返して貰いたかった。 祭りは月に1度。月に1度しかリョウに会えないのだ。リョウの首飾りは、ずっと身に着けて置きたかった。 リョウは、ナノハを自分の村に入れてくれないかとムラオサに頼んだ。ムラオサも当時16歳の弓の達人、リョウの願いを叶えてあげたかった。隣のムラオサと交渉した。向こうの村が提示した条件は到底飲めないものだった。 「ナノハと引き換えに女3人を寄越せ。」 ナノハは、リョウがムラオサを通じて交渉をしてくれたと知った時、ナノハの胸から熱い感情が湧き出した。 オレがリョウを想っているのと同じ気持ちをリョウも持っている…… それからは、祭りでも2人きりにならないように、それぞれの村のムラオサから妨害された。 それ以降もナノハは村の女としての役目はきちんと果たした。村の仲間と仲良く仕事をして男の選り好みはしないで、相手をした。
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