6、ヌチ

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ジジイは、それを引ったくると家の中を見て回るつもりだったんだろう。家の方へ走って行った。 オレも走って逃げ出した。背負ってる物の中にはジジイの家から失敬したものもあった。ジジイはジジイのくせに足が速くて直ぐ追いつかれた。 「子供、子供は?オレの子供も連れていくのか?」とジジイ必死。だからタネアカシした。 「あんたの子じゃないよ。村はそういうもん。離せよ!」と手を振り解くとジジイはオレに掴みかかって背中の荷物を取り上げた。 これにはオレもキレて「俺のもんと餞別だろ。いいだろ。」と論理的に説明した。ジジイは、黙って下を向いてしまった。そして、ジジイはその場からジッとオレを見ていた。 カケルは、十分分かっていたつもりだった。あの女、まだ15かそこらの子供は勘違いをしている。カケルは女の子供を守ってやっていた。 女が1人で生きていける訳がない。自分は年寄りで最後まで一緒にいてはやれない。 一緒にいてくれさえすれば、自分が死ぬ時に、あの家ごと譲るつもりだった。 何度か身体の関係は持ったが、ヌチとは到底家族にはなれないとも思っていた。 遠ざかっていくヌチを見送るだけにしようと思っていた。 その時、5人の男が現れてヌチを箱に入れた。 拐って何処かに連れていくのかと思った。違う。もっと最悪の展開だった。何かおかしいとヌチも思ったのだろう。 「ジジイ、たすけて、たすけて、たすけて〜っ!」と言う叫び声が聞こえてきた。 ヌチは生きたまま解体されていた。カケルは凍りついて一歩も前に進めなかった。助けてやりたくても、若い男が5人もいる。あの5人はなんだ?ぎゃ〜という叫び声が永遠に続くような気がするような時間だった。カケルも全身に嫌な汗をかいていた。 最後に男のうちの1人がぽ〜んと丸いものを投げて寄越した。ヌチの頭。それがコロコロ転がってカケルの方を見た。いや、見れない。目玉がなかった。 男の1人が言った。 「ジジイに思い出をあげる。俺たちは俺たちの食糧の調達に成功した。身体の方は残さず食う。この女は相当なワルだから食っちゃったほうがいいよ。誰かに感謝されるよ。きっと。」 生きたまま食糧になってしまった15かそこらの女の子ども。守ってやるどころか、結果的には見殺しにしてしまった。 この遠い昔の出来事が「青の離宮のカケル」の奥底に眠っていた。 行きたまま解体された子供。助けて、助けてと叫んでいたのに一歩も動けない自分。 今度会えたら、絶対に助けるから許してほしい。
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