7、暗闇の中

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7、暗闇の中

御免なさい。もう大丈夫よ。アオイ。 今日中に話す。全部。明日はルーティーンが溜まっているから時間がない。カケルという者の本質を知ってほしいの。 ヌチは、ならず者達に生きたまま解体された。カケルは、それを見ているしかできなかった。彼は1人の年寄りでしかなかった。この記憶が読めたのは、高天原にカケルが来て1000年単位の時間が流れた後よ。あの感情の正体が掴めなかったの。 ヒカルが生まれて家族3人になって私たちは食べて寝て、普通の暮らしをしていたわ。ただ、私とヒカルは洞穴の家からは出してもらえなかった。私もヒカルも暗闇でも目が見えるから、不便はないんだけど気持ちが塞いだわ。ヒカルは赤ちゃんだったけど、ペラペラ喋るし歩き回るし、知的には生まれた時に人間の10歳くらいかしら。そんな感じ。 「母上、父上はどうして私たちを外に出してくれないのでしょう?」 「誰かに見つかると私たちを盗られてしまうと思っているみたいだ。」 「その考えは分かりません。ずっと暗くて気が塞ぎます。」 そんな愚痴をヒカルと言い合いながら暮らしていた。 ヒカルが生まれると、また、カケルは私の上に乗るようになった。私は何時も身体の力を抜いて無抵抗に徹した。また、ビンタされたり殴られたりしたくないもの。顔はいつもカケルを見ないようにしていた。横を向いて目を閉じていた。 ヒカルは、それを見ていたの。普通の人間の子供なら暗闇で何も見えないのにヒカルには見えてしまう。 ヒカルには、毎晩私が父親に酷いことをされていると見えたでしょう。 私は、あの洞穴で見た夫婦の営みがヒカルの性格に大きな影響を与えていると思うのよ。 多分、縄文のカケルは女性経験が少ない。そして、コミュニケーション能力も低かったと思うわ。 そんなの当たり前よ。カケルには友達さえもいなかったんだもの。 カケルにとって、初めての友達があなたなのよ。アオイ。 そしてあなたは、一人きりの友達なのよ。 そのうちに私は2人目の子供を孕った。流石に2度目は直ぐカケルに教えてあげたわ。 そうしたら、カケルはまた泣くのよ。こんなに幸せでいいのかって。 まるで自分は「幸せ」を享受するには値しないというように…… 暗闇の中で私は正に囚われていると思っていた。 でも、今思うと本当にそうだったのかしら……分からない。 私にとっても仕事に忙殺されていない時間は初めてだった。 ヒカルを抱っこして2人で並んでお昼寝をしたり、2人でお歌を歌ったり。 家族を持てたのは、カケル同様に私も初めてだった。 3人とお腹の子で普通の本当に普通の暮らしができたのは、あの時だけなのよ。
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