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9、集団の論理
次の朝、私は泣くだけ泣いて気分がスッキリしていた。
カケルに「オレの首飾り返してくれる?」と言ったら、カケルは驚いた顔をして洞穴のヒビの間から水晶の玉がついたペンダントを返してくれた。
「すまねぇ。すっかり忘れてた。」と言ってニッコリ笑い、首飾りを結んでくれた。
私とヒカルはカケルに手を振った。カケルはいつものように狩場に出かけて行った。
いつもと同じ様に私はヒカルとお話をしていた。
そこに松明を持った男が洞穴に入ってきた。1人2人3人……5人いた。
先頭の男が松明を持っていた。それでアチコチ照らして私とヒカルを見つけた。
「やっぱり居た。若い女だ。ガキもいる。この女は子供が産める。村に連れていく。」
私とヒカルの日向ぼっこは、とても危険な行為だったのだと私はその時に気づいた。
誰かが言った。「また、孕んでやがる。あのジジイ化け物だな。腹に子がいる女に手出ししちゃなんねぇ。村の掟だ。」
「ちっ!楽しみにしてたのによ。」と仲間が言った。「じゃあ、村に連れていくべ。」
私とヒカルは、私が6年前に行った平地の村に連れて行かれた。
ヒカルは村に連行される道すがら、ずっと大声で泣いていた。「うるせえガキだな。ぶっ殺すぞ!」と誰かが言った。するとまた仲間が「子供を殺ったらオメエがぶっ殺されるぞ!」と嗜めていた。
私達は、村に着くと広場の真ん中に立たされた。周りを村の連中が取り囲んだ。女が異様に多い。10歳の私が疑問にも思わなかったことが、16歳になり母親になった私には分析できるようになっていた。
集団でなければ生きていけない者達の心の穴も見えた。
みんな、幸せという概念すら持っていなかった。
リョウは26歳になり、その心の穴は癒えるどころか深くなっていた。
みんなと同じようにしなければ死が待っている。
自発的に村にいるのではない。他の選択肢もあることも知らない。
カケルという個で生きてきた孤独な人間の男から私が学んだことは想像していたより大きなものだった。
ムラオサが言った。
「お前ら親子は今日から村で暮らすんだ。村はいいぞ。食い物に不自由しない。みんなで守り合い助け合う。今よりもいい暮らしができる。子供をたくさん産める。お前は未だ15、6だろう?後、10人は産める。男たちは優しいし、この村は今1番勢いがある。」
私は鼻で笑った。
「オレたちは夫婦2人で十分やっていける。村には住まない。
ここの暮らしが1番だって?オレの男は1人で此処以上の暮らしをオレに与えている。
オレは、誰のタネだか分からない子供を産むのは嫌だ。気持ちが悪い。
男のタネについてお前らは大きな誤解をしている。オレの男はすごく知恵がある。年寄りでも身体が丈夫だ。
頭が良くて丈夫な身体、それ以上のタネがどこにある?」
「昔から村は、違う男のタネを取り込んだ子供で繋いできた。そうやって続いてきた。
ムラオサであるオレは同じ様にしている。それが人間の生き方だからだ。」
「ムラオサ。お前は大きな勘違いを引き継いできた。
違うタネに拘っても生まれた子供が一年後に生きてるのは半分以下。それは同じだろう。
人間と獣の違いは“心の有無“だ。獣にも感情がある。でも、人間の心は感情だけではない。
幸せを求めて自分で考えて方向を決めるものだ。全員が同じ考えではない。
同じことをしていても何も変わらない。
この男の子と腹の中の子は父親が同じ。同じ様に丈夫に1歳を超える。
分かるか?あの男の子供だからだ。
あの1人の年寄りが作り上げた暮らしはお前らが思ってもいない暮らしだ。」
陽は大声で叫んだ。
「嫌だ!断る!村になど誰が入るものか!」|
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