9、集団の論理

2/2
前へ
/54ページ
次へ
(あかり)の叫びはリョウの胸に突き刺さった。 オレとナノハも村抜けすれば良かったんだ。オレは腕のいい狩人。オレはナノハも子も食わしてやれた。それなのに「村の掟」に縛られて、それを考えもしなかった。 「リョウ!この女を殺せ!手前勝手な者が増えたら村は立ち行かなくなる。示しがつかない。殺せ!」 ムラオサがオレを見て殺人をしろと言う。 オレが隣村の男たちを沢山殺したから、オレがそれをしても平気だと思ってやがる。 オレは大事なナノハを奪われたから復讐しただけだ。あの日からオレは罪悪感で押し潰されそうなのに………。 リョウは(あかり)に弓を構えて近づいた。 そして、母子の近くに来ると村の皆に向かって矢を向けた。 「帰してやれ!こいつらは帰ると言っている!邪魔をするならオレがお前らを撃つ!」 ムラオサはふふんと笑うと言った。「女!お前の男は、もう死んでいる。お前を連れてくる前に他の者たちが殺しに行った。」 リョウは、(あかり)の顔を見た。 (あかり)は小さな声でリョウに言った。 「お前は村抜けしろ。お前も1人で生きていける。村の正体が分かったろ。先に行け。オレは大丈夫だ。」 リョウは弓を構えたまま走り去った。 本当は、リョウを召し上げたかった。でも、リョウは余りにも多くの人の命を奪っている。高天原では召し上げできない。 ウリはナノハ。ナノハは私が召し上げた。安心していいんだ。 (あかり)は心の中でリョウに囁いた。 (あかり)のペンダントの水晶が光り始める。その光は強く気高い光。(あかり)はヒカルの手をぎゅっと握った。 光は、パアッと大きく光ると次の瞬間消えた。消えた後には若い妊婦と子供が存在した痕跡すら無かった。 村の者達は夢でも見ていたか、触れてはならないものに手を出したのかもしれないと怯えた。天罰を恐れていた。 (あかり)とヒカルは洞穴のある山の頂上にいた。 母は息子に言った。 「この母の手伝いが出来るくらい大きゅうなれ。」 ヒカルは20歳ぐらいになった。 「此処から見える範囲が父の狩場である。この辺を2人で探そう。ヒカル、お前は東へ、我は西へ。隈無く探すのだ。鳥の目で。空を飛ぶのだ。30分は飛べる。我らにはその力がある。そして、父を見つけたら、頭の中で場所を教えるのだ。お互いに。」 「行くぞ!」というと母は崖から飛び降りた。少し落ちて上に向かって飛翔した。 ヒカルも恐々と母の真似をした。 ヒカルは空に向かって飛翔した。身体が空気のように軽かった。上から見る地上の風景はおもちゃの様だった。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加