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アオイは怖い顔をして陽を見つめた。
「君は、なんていう話を私にしたんだ。
君は気がついているのか?話し出した時の口調と倒れる前の口調、回復してからの口調が、まるで別人のようだ。
君が3人いるようだったよ。君は無自覚に嘘をついていた。今もついている。君にとってカケルという者はなんだ?」
「我を6年支配して子を産ませた人間の男。我は誇り高き存在なのに、その我を人間の女と比べた男。」
「違うね。君は支配されていない。子が欲しいと思っていないとも言った。本当にそうだったのか?それも違う。
カケルのビジョンで見たヌチは、どんな表情をしていた?」
「助けを乞うていた。」
「君はカケルに助けられ、カケルは教師のように君に、あの『ひとしき世界』を生き抜く術を教えた。
カケルが君に悪いことをしたのは、無理やり最初に抱いたことぐらいだ。ヌチと言っていたのは、カケルの罪悪感じゃないか!
君とヌチを比べてもいない!
逃げようと思えば逃げられた筈だ。あの洞穴の出入り口は塞いでもいなかった。君の話を聞いていたら僕にも見えた。
君が隠し続けたものが、私には分かったよ。君がそれを認めない限り、君とカケルは永久に迷路の中だ。
カケルの罪状の資料を読んだ。カケルをあそこまで追い詰めたのは君だ。たった6年の監禁で4000年の幽閉。
『青の離宮』で君はカケルを幽閉していた。」
「違う!皇子と皇女の父親だからだ。ウロウロされては困る。それだけだ!彼奴は我の子らの父ではあるが、我の夫ではない。」
「まだ、まだ嘘をつくのか?私のことも本当はどう思っているのか信じられなくなる!」
「アオイは、私の大切な存在よ!初めて田中陽で出会った時から、胸が高鳴った。あの感情は初めてだった。
あなたに会いたくて壊れそうな身体を引きずって東京を彷徨った。
赤坂に辿り着けなくて悲しくて、顔が見たくて廊下で座ってた。
あの感情は、あなたにだけ感じた。それには嘘はない………でも、あなたに会うまでは………」
「私に会うまでは?」
「……………」
「言え!言うんだ!それを認めろ!」
陽は顔を歪め歯を食いしばった。涙が滲んだ。
「カケルを愛していた!そして、それと同じぐらい憎んでいた!」
「3500年、人間のカケルがよく耐えたと思うよ。私は24年でもキツかったよ。カケルは家族もなく仕事も無かった。桃花だけが、心の拠り所だった。周りを“世話人“という看守達に囲まれて、幽閉されていた。
桃花が君たち家族を繋いでいた。成長できないんじゃなくて桃花が成長しないと決めている。これは推測だがね。」
このアオイの言葉を聞いて、陽は泣き崩れた。
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