10、旅の終わり

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アオイは怖い顔をして(あかり)を見つめた。 「君は、なんていう話を私にしたんだ。 君は気がついているのか?話し出した時の口調と倒れる前の口調、回復してからの口調が、まるで別人のようだ。 君が3人いるようだったよ。君は無自覚に嘘をついていた。今もついている。君にとってカケルという者はなんだ?」 「我を6年支配して子を産ませた人間の男。我は誇り高き存在なのに、その我を人間の女と比べた男。」 「違うね。君は支配されていない。子が欲しいと思っていないとも言った。本当にそうだったのか?それも違う。 カケルのビジョンで見たヌチは、どんな表情(かお)をしていた?」 「助けを乞うていた。」 「君はカケルに助けられ、カケルは教師のように君に、あの『ひとしき世界』を生き抜く術を教えた。 カケルが君に悪いことをしたのは、無理やり最初に抱いたことぐらいだ。ヌチと言っていたのは、カケルの罪悪感じゃないか! 君とヌチを比べてもいない! 逃げようと思えば逃げられた筈だ。あの洞穴の出入り口は塞いでもいなかった。君の話を聞いていたら僕にも見えた。 君が隠し続けたものが、私には分かったよ。君がそれを認めない限り、君とカケルは永久に迷路の中だ。 カケルの罪状の資料を読んだ。カケルをあそこまで追い詰めたのは君だ。たった6年の監禁で4000年の幽閉。 『青の離宮』で君はカケルを幽閉していた。」 「違う!皇子と皇女の父親だからだ。ウロウロされては困る。それだけだ!彼奴(あやつ)は我の子らの父ではあるが、我の夫ではない。」 「まだ、まだ嘘をつくのか?私のことも本当はどう思っているのか信じられなくなる!」 「アオイは、私の大切な存在よ!初めて田中(あかり)で出会った時から、胸が高鳴った。あの感情は初めてだった。 あなたに会いたくて壊れそうな身体を引きずって東京を彷徨った。 赤坂に辿り着けなくて悲しくて、顔が見たくて廊下で座ってた。 あの感情は、あなたにだけ感じた。それには嘘はない………でも、あなたに会うまでは………」 「私に会うまでは?」 「……………」 「言え!言うんだ!それを認めろ!」 (あかり)は顔を歪め歯を食いしばった。涙が滲んだ。 「カケルを愛していた!そして、それと同じぐらい憎んでいた!」 「3500年、人間のカケルがよく耐えたと思うよ。私は24年でもキツかったよ。カケルは家族もなく仕事も無かった。桃花だけが、心の拠り所だった。周りを“世話人“という看守達に囲まれて、幽閉されていた。 桃花が君たち家族を繋いでいた。成長できないんじゃなくて桃花が成長しないと決めている。これは推測だがね。」 このアオイの言葉を聞いて、(あかり)は泣き崩れた。
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