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カケルとアオイは、向かい合って座った。カケルは晩酌も中止した。
まず、アオイから話を切り出した。
「君は3500年もの幽閉に耐えたのに何故500年前から脱走を繰り返したの?」
「またいつか、俺は4柱で家族に戻れると信じていた。だから耐えた。
女王も律儀に定期的に面会に来ていた。それは、年4回の国内視察のついでだったがな。面会は毎年ではなかった。平均して2年に1回。
桃花に障害の疑いが出てきて確定されるまで10年来なかった時もある。」
「障害って、成長しないと言うことだね。」
「そうだ。あの娘の中身は大人の女だ。俺によく似ている。凄く頭がいい。大人になるのを拒否しているように子供のふりをしている。
あの子だけが、俺を父親として扱ってくれる。週の半分は此処に来る。
ヒカルは何を考えているのか分からない。八つ当たりをしにくるだけだ。
女王は、もっと分からない。律儀に面会に来て碌に話もしないで帰る。その繰り返しだ。」
「僕は縄文の話を陽から聞いた。彼女は“女王“というお役目の奴隷だ。自分の誇りを傷つける相手は絶対に許さない。
それが自分自身であっても許さない。率直に言うと君は縄文の常識で彼女に出会っただけで君自身は何も悪くない。
問題になっているのは500年前からの行いだ。それが立件されている。
何故、あんなことをした?」
カケルは下を向くと、口角を上げてニヤッとした。
「反抗した。あまりにも不当な扱いを受けていて、それが永遠に続くと分かってしまった。もう、自分で自分を騙せなくなった。」
アオイは怪訝な顔をした。
「橙色の焚き火の話もアマから聞いたろう?約500年前に、俺はアレを再現したんだ。
あの縄文の最後の夜、あの夜は、俺にとっても特別な瞬間だった。
ずっと1人で生きてきた。最初の女房ヌチは、どうしようもない女だった。でも、目の前で生きたままバラバラにされた。最後に投げられた頭には目玉も無かった。俺は何もできなかった。何とかしようとも思わなかった。できないのは分かっていたから。
それは、俺に酷い罪悪感を植え付けた。それから僅か2年でアマが現れた。
アマは、子供だった。何でも素直に信じて好奇心丸出しで、何でも覚えたがってやりたいと言った。可愛くて仕方なかった。
俺は歳を取りすぎていた。分かっている。年端も行かない娘を手篭めにしたのは。
でも、アマは逃げなかった。すぐヒカルができて俺は幸せで死んでしまうかもと思った。
それに呼応するようにヌチに対する罪悪感は、日増しに大きくなっていった。」
アオイは閉じていた口を開いた。
「だから、幸せを感じるとヌチの名前を口に出した。君はヌチに詫びていたんだね。」
カケルは不思議そうな顔をした。俺はヌチのことはアマに言っていない。」
アオイは医師として解説した。
「君は陽を抱くたびに“ヌチ“の名を言っていた。無意識に。その時のビジョンを陽は見ていたんだ。彼女は人間の穢れものと比べられるのは到底許せないと言っていたよ。」
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