12、美穂の王子さま

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誰も私を見てくれなくても、私は私の幸せを探す。誰も私に関心を持ってくれなくても、それは私も同じ。 私も恋をした事がない。最初から諦めて好きにならないようにしてきた。 「どうせ、相手にされない。」 事実は違っていた。美穂は美人ではなかったけれど、その素直で真っ直ぐな性格は誰からも愛されていた。会社の中でも密かに美穂に声をかけようか悩んだ男性社員も数名いた。それら、全ての芽を美穂の父が摘み取っていた。お見合い話は山ほど来ていた。でも、美穂の父は娘を不幸にする要素を一つでも持つ男は排除した。娘を溺愛していたのだ。 元カノ(ぜんか)がゼロで、呑む打つ買うの要素を一つでも持ってても排除!真面目な士業、実家の安定性。これらの要素を全て満たす相手を探していたのだ。 美穂の父がやっと見つけた王子様が、早川光だった。美穂より3つ下。初期研修が終わったばかりの外科医。実家は早川一族。S玉の大病院だ。父親とは養子縁組……ここが引っかかって、調査会社を入れた。 早川葵と早川光の写真を見て納得した。実子だ。 早川光は、複雑な家庭環境で育っている。だが、苦労は悪いことではない。苦労の結果は本人を見てみないと分からない。 美穂の父は、間に入ってくれた東京都医師会役員の医師に電話をして相手方に前向きに検討したいと伝えて欲しいと頼んだ。 その話を受け取ったのが、葵の長兄、早川一也だった。 美穂は父が持ってきた見合い話に仰天した。 3歳年下の外科医?写真を見るとイケメンだった。 美穂の得意技、「私なんか」が頭の中でグルグルした。 「お父さん、向こうからお断りされるわ。なんで、こんな不釣り合いなお話が私に来るの?」 「何を言ってるんだ。美穂。この男性(ひと)は美穂と結婚できる可能性がある幸運な人だよ。美穂は素晴らしい女性なんだよ。」 「お父さん、それを親のよく目と言うのよ。女は顔よ。見た目よ。私はなんの取り柄もない。歳も30近い。このお話だって、お父さんのコネで引っ張ってきたんでしょう?」 「彼方(あちら)の親御さんが、早く結婚させたいという強い意向があってね、美穂、歳下は嫌か?」 「そんなことはないけど……。」 「じゃあ、会うだけ会ってみようよ。」 お見合いの場は目○雅叙園。2週間後の土曜日。お見合いは直ぐに決まった。 当日、美穂は母から振袖を強制的に着付けられた。 29の女の振袖姿………イタいわよね。 鮮やかな桃色を基調とした加賀友禅に西陣の帯。美穂は緊張でガチガチだった。
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