3人が本棚に入れています
本棚に追加
お見合いは、個室で会席料理を食べただけだった。美穂の両親と光の父だけが喋っていた。
美穂は下を向いて、チラリチラリと光を見ていた。光は最初の挨拶の時だけ美穂の方を見て、後はずっと窓の外を眺めていた。
美穂は、申し訳ないなぁと思った。
美穂の父が「ここからは、若い人たちだけで。」と言って光の父と美穂の両親は席を外してしまった。
光は黙ったまま窓の外を見ている。美穂は悲しくなった。
「ごめんなさい。私のような年上の冴えない女とお見合いなんて。帰りましょう。」と務めて明るく言った。
すると、光が「どうしてですか?僕の方こそ御免なさい。僕は、あなたのように美しい人に会ったことがないので、緊張していまして……失礼な振る舞いをしたのなら、御免なさい。」と言った。
「馬鹿にしないでください。自分の顔は自分が一番よく知っています!」
流石の美穂もこんな揶揄われ方をされるのは我慢がならなかった。
「嘘じゃないです。本当です。あなたは、とても美しいです。どう言ったら分かってもらえるんだろう……僕には、美しいとしか見えないんです。」光は美穂の『気』を見ていた。こんなに美しい色は初めてだった。
「嘘……本当?」「はい。」光は言うと、美穂を見つめて微笑んだ。
2人のお付き合いは、こうして始まった。美穂も何故か光の前では緊張したり自己卑下することが無かった。
身元がしっかりしている相手とのお見合い結婚はスピーディーに話が進む。
半年後、美穂は早川美穂になった。
結婚してからは、本当に幸せな毎日だった。光は甘えん坊なところがあった。何時も帰宅するとぎゅっと美穂に抱きついた。
「美穂ちゃん、ただいま。」そしてギュッととする。これは、亡くなる前日まで同じだった。
結婚一年後に長男の梓が生まれ、梓も赤毛だったので「最強遺伝子」と言って光と義父は笑っていた。
その義父が亡くなった2週間後、光も亡くなった。
光の納骨が終わると父は梓と実家に帰って来いと煩くなった。美穂は泣いてばかりいた。泣いている美穂の側に梓が寄り添っていた。
泣きもしないで。。。
この子はまだ15歳。夫によく似た赤毛。
美穂は本当に光を愛していた。たった1人の男性を愛し続けると覚悟を決めた。
父の援助は断った。実家にも帰らなかった。46歳の美穂は遺族年金とパートの仕事を二つ掛け持ちして生計を立てた。
私が、私1人で光との子を育て上げると決意した。梓も頑張って通える範囲の国立の医大に入ると言ってくれた。
パートはコンビニと掃除婦だ。46歳では仕事は選べない。
もう、誰も美穂を美しいとは言ってくれない。でも、それでいい。美穂は夫を愛していたから早川美穂のままでいる。
美穂は自分の生き方で自分の愛を証明しようと決意していた。
最初のコメントを投稿しよう!