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13、裁断前日
陽は、アオイが出ていってしまってからも「お役目という日常の儀式」を淡々とこなしていた。
イチキは女王の様子がおかしいのに気がついていた。それは、アオイが「けつじゃう」に出席しなくなってからだという事にも、勿論気がついていた。
明日に迫った「裁断」についても女王はイチキに相談してこない。重大な物事の裁断を行う時、以前なら偉そうに「其方の見地から見るとどうじゃ?申してみよ。」と、さも「イチキが決めてっ!」と言わんばかりの表情で言って来ていたのに何も言わない。
「けつじゃう」以外のことは話さない。
この1週間、イチキは幸せのどん底にいた。女王はヨウナを人事異動した。
ヨウナはイチキの秘書だ。この秘書は、実務能力は皆無、でも、口うるさかった。
「なんですか!旦那様。そのお姿は!王宮に出仕しているのですから、襟元をきちんとお閉めになって、袴を着用するのは最小限の礼儀でございましょう!信じらんな〜い!お髪もせめて後ろで御括りくださいませ!」
ヨウナに言われた通りにイチキが身仕舞いを正すと今度は、「やだ!素敵になりすぎてしまったわ!他の女官が笑いかけたりしてきても話しかけたりしないでくださいましっ!」と、日々秘書から命令される毎日となってしまった。
ヨウナの認知は更に歪みきってヨウナの目に映るイチキは実物より500%増しイケメンと化していた。
「けつじゃう」が終わると女王はイチキに尋ねた。
「其方とヨウナは結婚しないのか?」
イチキは顔を真っ赤にした。女王はイチキのこの顔を見たことがなかった。
「陛下と同じです。あなた様は、24年考えていたのでしょう?赤坂でアオイ様を待っていた頃のことは、私にとっても学びだったのですよ。自分が抱えているお役目、自分の気持ち、御相手の心と個性を十分知ってからでないと結婚はしてはいけません。
その先の方がずっと長いのですから。本当に幸せになりたかったら、急いではいけないのです。
それを陛下から教えていただいて私は良かったと思っておりますよ。」
女王は微笑んだ。
「そうか。我でも其方に教えたことがあったか。」
その時、玉座の間にアオイが入ってきた。「『けつじゃう』は終わったか?」と低いドスが入った声で言った。
イチキは1週間ぶりに見たアオイの雰囲気の変わりざまに驚きながらも答えた。
「はい。先ほど“今日のけつじゃう“は終了いたしました。」
「今、ここにいるのは女王とイチキだけだな。イチキ、これを読め!」アオイはそう言うと書類の束を差し出した。
イチキは一枚目の『出生証明書』を見るなり顔色を変えた。赤国王セキのサインと印!
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