13、裁断前日

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50枚はあろうかという書類をイチキは10分も掛からずに全部読んだ。 「イチキ、その内容を女王に話してやれ。簡潔に短くだ。」アオイはイチキに下知した。 女王はアオイの顔が見れず下を向いていた。 イチキは女王の正面に跪いた。恐らく大変なショックをお受けになるだろうからと考えた。 「女王陛下、よくお聞きください。 カケルは人間ではありませんでした。カケルは、あの国交を断絶した爽国の王の庶子です。 カケルは赤国の王セキ様の英才教育プログラム「赤子の下界落とし」で人間の縄文時代に送られました。本来なら、カケルは、そこから人間の過酷な生を何度か学び、赤国の『王の補佐官』になるはずだったのです。 それが、学びの機会を奪われ、高天原に留め置かれる事になってしまった。 4000年、青の離宮にいたのですから学びようがありません。 私も陛下も気がつかなかった。これは詫びて許される事ではありません。内閣も宮仕も噂していた民草も皆んな同罪です。 女王は暫く黙っていた。そして言った。 「明日の裁断と彼奴(あやつ)出自はまったく関係なかろう。罪に問われているのは、脱走及び『龍の島国』で彼奴(あやつ)が引き起こした罪じゃ。 アオイが彼奴(あやつ)の出自を我に知らせたのは、裁断に手心を加えてほしいと言うことではない。 アオイ。そうだろう?」 アオイも表情一つかえず言葉を返した。 「そうだ。」 「其方(そなた)がコレを我に教えたのは、我にも“偏見と差別“が宿っていると言いたいのだろう!そうだな!」 「そうだ!それも認めろと言っている!それがあったから大きな間違いを犯した。6年の監禁で4000年の幽閉。『思しかまひ』の前提も成り立たない。彼は圧倒的に不利だ。どんなに優秀な頭を持っていても“経験“という学びはほぼゼロだ。まともな対人関係を構築するには沢山の他者と関わらないとそれを行うスキルは育たない。そう考えれば、彼が脱走して犯した罪でさえ、未熟な権力者が引き起こした弊害という事になる。 女王は分かっているのか?桃花だけが一番本質を見抜いていた!あの子は身体は子供でも、思考と精神は大人だ。物事の起源まで遡って考えられる。そんな桃花にお役目を与えなかったのは、女王が「子供に仕事をさせている」と言われたくなかったからだ。 『龍の島国』の人間を見下している見守る神。それが君の正体だ! 人間臭い高天原の神々、それだって国の象徴である女王が人間そのものの心性の持ち主だからだ!」 (あかり)は、暫く黙っていた。 「時が満ちた。明日の裁断は短時間で終わるだろう。2柱とも下がれ!」と女王は下知を下した。
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